運命の人
「あまり煽るようなことしないで」
「煽っては」
いない、と言おうとした時、体が離され、視線の高さを合わせるために如月さんは身を屈めた。
至近距離で見つめ合う。
でも如月さんの表情はあまりに真剣で胸がざわつく。
「あの、私」
「分かってる。でも俺は樋口さんのことめちゃくちゃ好きなんだよ。喜んでもらいたくてこんなにたくさん料理を作っちゃうくらい好きで好きでたまらない。身も心も俺のものにしたいって思う。でも大事にしたいとも思っているから今日は手を出さないって決めていたんだ。それなのに『大好き』とか抱きつかれたら何もしないではいられなくなる」
「すみません」
如月さんのことを考えもしないで。
浮かれて抱きついたりして、バカみたい。
「泣かないで」
「泣いてはいません」
情けなくて泣きそうだけど、涙は流れていない。
「泣き顔じゃん」
如月さんは笑って私の目元を拭った。
「こういう顔です」
「可愛いけどね。悲しい顔はしないでほしいな。嬉しかったんだから、ものすごく」
「本当にすみません。今度はタイミングちゃんと見計らいます」
反省を込めて言うと如月さんは笑ってくれた。
「よし。じゃあ食べよう。手料理、楽しみだ」
「私も。いただきます」
取り皿に如月さんが作ってくれた全種類を盛り、一品一品味わって食べる。