運命の人
「んー!美味しい!」
「樋口さんも料理上手いね」
「とんでもない」
如月さんの作ってくれた料理はどれも料理人顔負けの味で、私の料理なんて足元にも及ばない。
「でも私、一つだけ誰にも負けないものがあるんです」
「なに?」
「お茶です。実家に茶畑があって。小さい頃からお茶を淹れていたから、緑茶を淹れるのは得意なんです」
「それなら淹れてもらおうかな」
如月さんはそう言うと食器棚から急須とお茶っ葉を出して来た。
「お手並み拝見といきましょうか」
如月さんに煽られて、やる気に火がつく。
「どうぞ」
食器の片付けを如月さんがしている間に頃合いを見てお茶を入れた。
片付けを終えてソファーに腰掛けた如月さんにお茶を出す。
「いただきます……ん?おぉ!美味しい!」
「でしょう?」
自慢げにドヤ顔して見せると如月さんは声を出して笑った。
「如月さんの笑った顔、私すごく好きです」
「だから、そういうこと言わないってさっき注意したよね?」
「そうですけど」
如月さんの笑顔を見ると胸が温かくなる。
温かくなって幸せを感じて、本当に好きだって思うから言ったのに。
「好きって言えないのもつらいですね」
「なら言っていいよ。そのかわり」
如月さんの顔が近付いてきた。
「俺の気持ちも受け止めてくれる?」
熱を帯びた妖艶な瞳と甘い声。
自分でこの状況を作っておきながらなんだけど、尻込みしてしまう。
でも好きなのに好きと言えないことも、この状況を繰り返すのも嫌だ。
なにより好きな人に触れたい。
覚悟を決めて、ゆっくりと目を閉じると唇に唇が重なった。
「澪」
名前を呼ばれて目を開ける。
如月さんが熱っぽくこちらを見つめていた。
「澪」
「はい」
「愛してる」