運命の人
 「澪」

 不安を消したくて、腕の中でまどろんでいる澪を呼ぶ。

 「なんですか?」

 「仕事は楽しい?」
 「はい」

 間髪入れず返ってきた答えに髪を撫でていた手が止まる。
 でも澪はそんなことお構いなしに話を続ける。

 「契約件数とか販売実績とか、数字を出さなきゃいけないのは大変ですけど、病気で苦しんでいる人の役に少しでもたてるなら、って思うと頑張れるんです。最近では先生や薬剤師の皆さんと話すのがとても楽しくて」

 なにかを思い出すように微笑む澪を見て、胸がモヤッとした。
 ダメだな。
 俺は澪に会ってから嫉妬ばかりしている。
 仕事相手の医者や薬剤師に嫉妬したって仕方ないことなのに。

 「如月さんは仕事、楽しいですか?」

 聞かれて少し考える。

 「楽しい、とは思わないけどやりがいは感じているよ」

 責任もある。
 だからもし澪が転勤すると言ったら俺が辞職することは出来ない。
 かと言って仕事を楽しいと言う澪から仕事を奪うことも出来ない。
 一秒だって離れたくないのに。
 もし澪に転勤の話が出たら俺はどうしたらいいんだーー。
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