運命の人
「もう具合は大丈夫そうですね」
つい先程までの具合が悪そうな険しい表情は、今はない。
「でも早く休んだ方がいいですよ」
「ありがとう。樋口さんはとても優しい方ですね」
そう言う如月さんの視線の方が優しい。
笑顔もすごく素敵で、胸がドキッと反応してしまった。
でも私とは住む世界が違うタイプ。
「それでは私はこれで」
話を終えるようにペコリと小さくお辞儀をしてから階段の方に足を向ける。
それなのに。
「本当に待って。親切にしてくれた方を一人で帰すわけにはいきませんから。一緒にタクシー乗り場まで行きましょう」
「でも、まだ終電が」
そう言っても如月さんが納得してくれそうにないことは表情で理解した。
だから私の家より如月さんの家の方がここから近かったからタクシーに乗るという提案をする。
「信用されていませんね」
如月さんは困ったように笑うけど、信用できる要素は残念ながら少ない。
どれだけステキでカッコ良くても世の中には悪いことを考える人はいるし、そんな人に万が一にでも家を知られて後々何かあったら困る。
自分の身を守るのは自分だ。
だから黙って答えを待っていると如月さんは運転免許証を出して見せてくれた。
「どうですか?」
「私の方が遠いですね」
「じゃあ一緒にタクシーで帰りましょう」
歩き出した如月さんの背中に、慌てて付け加える。
「超過分は支払いますから」
…って聞いてくれていたのか、いないのか。
返事がないままタクシーに乗り込んだのはいいけど。