甘い鎖にとらわれて。
もしファンの女の子たちが引っ越したことを知っていたら?
誰かが遊びに来ていたら?
「あ、どうもこんにちは」では逃げられないよ絶対。
想像するだけで怖い。サーッと青ざめるのに、スマホから響くのはゆるーい声。
『想像力豊かねー。莉乃がんばれ』
「もしバレたら助けてね……」
『任せなさい』
知れ渡ったらーーまずいことになる。
ということは、知らせなきゃ無事で済む話。
「よし、口止めに行こう」
『え?どこに?』
「実帆ちゃんまたね!行ってきます!」
「うん……?」
ふと頭に浮かんだ突拍子もない案をすぐに採用して、玄関まで向かう。
だけど今が夜遅くだということに気づいて、ピタリと足が止まった。
……また今度でもいいかな。
うんそうしよう、と不安は頭の端へ。
その日はすやすやと眠りについた。
……あのとき行かなかったことを後悔するとは思わずに。