甘い鎖にとらわれて。
っ、え……?
目を見開く。心臓が嫌な音を立てる。
ここから先は見てはいけない、そう警告しているように聞こえた。
だけどくぎ付けにされたみたいに、私は目をそらせない。頭では逃げようとしていても、身体は逃げるそぶりひとつしなかった。
「……は、めんど」
低く澄んだその声が聞こえた瞬間、いままで私の頭につくられていた"深月 透夜"という人物がガラガラと音を立ててくずれていった。
…うそ、でしょ。
口の端だけをゆっくりと上げて笑う姿は、いつもの彼とはまったくちがう。
うっすらと、そんな気はしてた。だけど、本当だったなんて誰が思う?
学校の王子様と呼ばれている彼が、告白してくれた女の子が去った後で「めんど」と呟いているなんて。
衝撃がつよくて、一歩後ずさりをするとーー上履きがザッと静かに擦れた。
このとき、その場に固まっていた私は、すぐに後悔する
。
ーーー気づかれていなかったはずの綺麗な顔が、こちらを向いていたから。