甘い鎖にとらわれて。
危うい笑みを浮かべた彼の表情を思い出して、手の力をさらにこめる。
街頭が少ない道だから、少し歩く速度を速めた。
びゅんと冷たい風が吹いて、私の足が寒さに固まる。
……はやく家に帰って、今日はすぐにベッドに転がりたい。
そう思って、もう一度ため息をついた。
そのとき、ザッと後ろから音がして、後ろを振り返る。
暗くてよく見えない。かろうじて捉えられるのはシルエットのみ。男の人だった。
別にまだ、歩いていて不思議という時間でもない。今日は明日の天気が雨なのか、暗かっただけで。
何も思わず、前を向いて歩みを再開した。
……だけど、
「……っ」
まだ、だ。
私の後ろを、確実に歩いている。
絶対にさっきの人だ。聞こえてくる足音が同じものだから。
この先に駅とかスーパーはない。あるのは私が住むアパートだけ。
嫌な予感がした。