甘い鎖にとらわれて。


歩く速度を速めると、後ろで響く足音も合わせたように速くなる。



……っどうしよう。



焦ったときにはもう遅く、手首を掴まれていた。


振り返りたくない、見たくないという思いもそこで砕ける。



「……甘い、匂い」


「……っ、」



自分の心臓の音のせいで、相手の言葉はよく聞こえなかった。


……っこわ、い。



逃げようにも、足が震えてうまく動かない。


体のどこもかしこもが、使いものにならない。



今日はなんて、ツイてない日なんだろう。


なぜか頭だけは冷静で、ぼんやりとそんなことを考えている。



そんな意味のないことを考えていると手首に力を入れられて、ギリ、と痛みが走る。



「っい、」



道路の端、ちょうど壁のあたりに追い詰められて、逃げ場はない。


なぜか相手は、私の声があまり聞こえていないようだった。



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