甘い鎖にとらわれて。



「自分が"ケーキ"って知らないと分かったときは、本気で苛ついたよ。ぬくぬく何も知らずに育って、おめでたい奴だなって何度も何度も」


「……」


「引っ越してきたらなぜか隣の部屋だし、感情ぐちゃぐちゃ」


「……みづき、くん」


「ケーキがどれだけフォークにとって魅力的で……憎い存在なのか分かる?」



フォークの人たちは、世間からこう呼ばれている。



ーーー予備殺人者、と。



心臓がどく、と大きく鳴った。


……食べられる、かもしれない。



そう覚悟したとき、私に落ちていた影がふっと消えた。



「ーーなーんてね」


「……え?」



ニコ、といつも通りの笑顔を向けられて、さっきまでのピリピリとした緊張が少し解けた。


ぱっと両手を上げて、"何もしない"というポーズをとる彼。



「そりゃあ一口齧りたいと思ったことはあったけどね」


「かじる……」



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