甘い鎖にとらわれて。
この人は、危険だ。
本能が警告を鳴らしている。
そんな私にはお構いなく、彼は私の耳元に顔を近づけた。
「ーー…食べられなくてよかったね」
「……っ」
あぶないほどに甘い声。
よっぽど美味しかったのだろうか、彼は上機嫌のように見える。
「っか、帰る…っ!」
「また明日ねー」
すぐに立ち上がって、ガタガタと音を立てながら、隣である私の部屋へと戻る。
パタンと玄関がしまったあと、扉に背を預けて、ずるずると座りこんだ。
「……っあつい…」
私がケーキで、彼はフォーク。そして仮初めの彼氏と彼女。
「……これからどうなっちゃうんだろう、私」
自分ひとりの部屋に、呟きは静かに溶けていった。