甘い鎖にとらわれて。



王子様という誠実な仮面を取ってしまっている彼に慣れてきた。


口調も砕けて、雰囲気も変わって。



それを知るのは、私だけ。


このアパートから離れて学校に近づくにつれて、彼は王子様をまとうのだろう。



「ふうん……とりあえず遅刻するから行くよ」


「あ、うん」


アパートの階段を降りたのはいい。


行こうと言われて進もうとするものの、なぜか目の前に差し出されている手。


頭にぽんぽんとハテナマークが浮かび上がる。



「……握手?」


「違うって。……ほんと慣れてねーのな」


「へ?……っちょ、」



首をかしげていたら、はあ…とため息を疲れて、その後ぐい、と手を取られる。


ぎゅ…と少し冷たいぬくもりに包まれた。



「えと……これは、」


「もしかして昨日のこと忘れてない?もう始まってるからよろしく、"彼女"さん」


「……っ」



彼氏彼女のふりをする、登校一日目。


あぶない関係が、始まった。



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