冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
ツインタワーで食事なんて、自分には一生縁のないことだと思っていた。

普段では味わえない極上の景色と食事を楽しむと、次はおとぎの国へ迷い込んだかと思う邸宅を、わたしはぽかんと見上げていた。

ノースエリアの住宅街は、丘を登るほどランクが上がると聞いたことがある。

雅さんの家は最奥地で、この住宅街のなかでもさらに一等地。真っ白な壁にぐるりと囲まれた中は、芝の庭が広がっていて、暑さが和らいだらくつろげそうなデッキと大きなプールがあった。

食事中に教えて貰ったとおり、居住空間は東西に別れており、二階にもふたつの棟をつなぐ連絡通路がある。

ついこの間訪問した家も十分豪華だったけど、レベルが違うほどの豪邸だった。

「始めは仕事場とプライベートを分けようと思って建てたらしいけど、結局あまり家にもいなくて半分しか使えていなかったんですって。

父は亡くなっているし、母も気ままにひとりが好きだから、孫を連れて一緒に住むのもどうなのかなって思ってたのよね」

雅さんが案内をしながら話してくれる。

「りんちゃ! こっち。みーちゃのおへやこっちお」

美菜ちゃんに手を引かれて、家に足を踏み入れた。

「お邪魔します……」

圧倒されて、ついキョロキョロとしてしまう。
床は全部大理石だろうか、空気がひんやりとして気持ちが良かった。

さっき買って貰ったばかりの荷物を胸に抱えて歩く。
着替えも何も用意がないと伝えたら、そのままツインタワーにあるショップで揃えることになった。

コンビニの下着で十分なのに、補正までできてしまう可愛いレースの上下セットとパジャマ、それに明日着るためのスーツまで。

スキンケアや化粧品までブランド物で買い揃えようとしていて、いくらお礼だとしてもそんなに貰うわけにはいかない。

必死に遠慮した結果、雅さんのものを使わせて貰うことでなんとか決着がついた。
きっと、それでも高級品。
十分贅沢だ。

「りんちゃ、おふろはいる」

美菜ちゃんが、期待を込めた目で見上げてくる。

「凛ちゃん、お願いしていい……?」

雅さんにも恐る恐る聞かれて、わたしは頷いた。

「はい。勿論です。美菜ちゃん、案内お願いしていい?」

美菜ちゃんの顔がぱあっと花が咲いたようになる。可愛いなぁ。わたしはデレッとした。

「こっち!」

藤堂家には、浴室がなんと七カ所もあるらしい。
案内して貰ったのは雅さんと美菜ちゃんがメインで使っているというジャグジー付のお風呂だった。
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