冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
藤堂怜士(とうどうれいじ)さん。雅さんの三歳下だと聞いている。そうすると三十四歳だ。

「怜士さんでいらっしゃいますか? 初めまして、芦沢凛(あしざわりん)と申します。なかなかご挨拶出来なくてすみません。
先月より、少しずつお仕事をいただいていたのですが、今週から、専属としてやらせていただくことになりました。よろしくお願い致します」

「こんばんは、初めまして。こんなに若い子だったんだ。凛さんはいくつ?」

「二十二歳になったばかりです。経験は浅いですが、一生懸命やらせていてだきます」

がばりと頭をさげると、怜士さんは気軽にねと言ってくれた。

「こちらこそ留守ばかりですまない。雅から聞いてるけど、強引にお願いしたんだって? 姉は我が強くて自由奔放なところが良くも悪くもあってね。迷惑をかけるときもあると思うけど、よろしく頼むよ」

夜遅いのに、仕事から帰ったばかりなのだろうか。

首元のネクタイを緩めたスーツ姿で、セットされた髪が窮屈だったのか、黒く艶やかな髪を手櫛でかき上げた。
雅さんと同じ系統の美男で、高い鼻筋にきりっとした目元が印象的だ。

なんて、格好いい人なんだろう。
職業はモデルか俳優だといわれても納得できる。雅さんがモデルだから、怜士さんもそうなのかな。

愛想よく挨拶をして貰っただけで胸がトクトクうるさくて、眉目秀麗な男性を前にして、自分が舞いあがっている自覚があった。


こんなに大きなお家に住んでいるんだから、有名な俳優さんかも……。

それを聞くのは憚られた。
あまり芸能関係は詳しくないので、また失礼をしてしまうことは避けたい。

「今お帰りですか? お食事がまだなら、何か召し上がりますか?」

「ああ、さっき飛行機で戻ってきたところで。和食があるならお酒と一緒に摘まみたいけど。何かある?」

「一昨日、雅さんが新潟の酒蔵のロケだったみたいで、日本酒が何本もあるんです。和風の摘まみですね……ミョウガの味噌和えと、レンコンのきんぴらと、大根の梅煮と……」

「いいね。好物ばかりだ」

すぐに食べたいと言うので、いつも雅さんと美菜ちゃんが使うダイニングに食事を用意した。

「いままでも、食事を用意してくれていただろ? いつも美味しくて感動していたんだ。
今日も完璧だよ。どうしてこんなに俺好みのつまみが用意されてるの」

怜士さんは日本酒を味わいながら喜々とした。

お酒に詳しいらしく、日本酒の種類について教えてくれた。大吟醸とか純米吟醸とか、製法によって名前も変わるらしい。

「雅さんもお酒を好まれるので、色々用意するようにしているんです。あと、雅さんも美菜ちゃんも和食を気に入ってくれるので」

「嬉しいよ。チーズやクラッカーばかりで日本食が恋しかったんだ。よかったら、君も一緒に飲む?」

「えっ、いいんですか?」

「いくら住み込みでも時間外だろ? 気が引けるなら、これも仕事だと思うといい」

お酒はあまり飲んだことなくて、実は興味がある。
少し嗜む程度なら良いかもしれない。
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