冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「では、少しだけご一緒させていただいてもいいですか?雅さんも怜士さんも、あまりにも絶賛されるから気になっていたんですよね」

「はは、素直でよろしい」

怜士さんは、見た目の鋭い印象とは違って、とても話しやすい。
雅さんもだが、壁がないというかなんというか。海外で過ごす時間も多かったと聞くから、社交的になるような環境だったのかもしれない。

さらには偏見かもしれないが、大富豪というと、もっと近づき難かったり、もう少し雇用主と従業員という境目があると思っていた。

雅さんも美菜ちゃんは家族のようにしてくれるし、こんな素敵な家族のお世話をできるなんてラッキーだ。
派遣会社では、気難しい人だと、とても気を使う話も聞いていたから。

とっくりを用意すると、怜士さんが注いでくれた。
恐縮しながらそれをうける。
とっくりも非売品の焼き物だと雅さんから聞いていて、持つだけで緊張した。

「どうぞ」

面白がっているのかな?
怜士さんの視線を感じながら、ゆっくりと一口含んだ。

初めて飲んだ銘柄はとてもまろやかで飲みやすいが、アルコール度数が高いようで、一口だけで喉の奥がかっと焼けた。

「うわぁ」

喉元の熱をやり過ごす。
なんだこれは。

「これは度数が高いから、飲み過ぎ注意だね。凛さんはお酒弱いの?」

「あまり飲んだ経験はないんです。
会社の飲み会で、居酒屋は何回か行ったことがあるんですけど、それ以外は家で飲むこともないし」

「友達と飲みに行ったりしないんだ?」

「友達は学生が多くて……進路が別れてから時間が合わなくなっちゃって、出掛けることもなかったので……バーとか憧れますよね……あの、シャカシャカするので飲んでみたいです」

「ははは。シャカシャカね」

笑われてしまった。
バーテンダーが振るあの道具の名前、なんて言うんだっけ?

「バーくらいなら何時でも連れて行ってあげるけど……それかうちのバーカウンター機能させるかなあ。せっかくあるのに全然使ってないんだ。バーテンダーでも呼ぼうか。そうしたら、毎日、作りたてのカクテルを飲み放題だ」

「凄く魅力的ですけど、一応、お仕事で来ているので……」

素敵な提案だが、毎日飲んだくれるわけにはいかない。

「真面目なんだな」

「このお仕事、ずっとやりたかったことなんです。機会を頂けて感謝してます。わたし一生懸命やりますね! おつまみは足りていますか? お茶漬けとかつくりましょうか」

話しているうちにやる気が漲ってくる。
腕まくりをしながら聞くと、怜士さんは気合十分だな、とおかしそうにした。

「いいね。頼むよ。ああ、世話をして貰うというのはこういう感じか。雅が住みこみの家政婦って言ったときは心配もあったが、君みたいな素朴な子なら和むのかもな」

怜士さんはほろ酔いなのか、クスクスと笑う。

素朴な子……個人的には誉められているのか微妙な表現だが、家政婦として寛げるというのは最大の褒め言葉だ。

「精一杯、務めさせていただきますね」

「はは。なんだか尻尾が見える。ほんと、忠犬みたいだ」

鼻息荒く返事をすると、怜士さんは極上の笑みを見せた。
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