冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「美菜あ……ごめん~ごめんね~……」

「まま、どーぶちゅえんだめなのお」

ふたりに泣かれてしまい、わたしも途方にくれる。どうするのがいいんだろう。
美菜ちゃんを説得して、お弁当を持って公園にでも行こうか。

悩んでいると、怜士さんが寝室に入って来た。

「どうしたの? 美菜の泣き声が響いてるけど。動物園いくんじゃなかったのか?」

スーツ姿の怜士さんが寝室に入って来た。出勤前にダイニングに降りて、広げられたままのお弁当と美菜ちゃんの泣き声で、様子を見に来てくれたらしい。

「雅さん、風邪をひかれてしまいまして」

「それで泣いているのか。かわいそうに」

怜士さんは美菜ちゃんを抱き上げた。

美菜ちゃんは、仕立ての良いスーツに涙と鼻水を擦りつける。

「怜士~……一生のお願い! 美菜を動物園に連れて行って」

雅さんがすがりつく。

「俺が?! 普通に仕事だぞ」

「最近やっとプロジェクトが落ち着いてきたから、会議が無ければ半休くらい出来るって言ってたじゃない~。お願い! 美菜がこんなに泣いてるの辛くて堪らない」

「そうだけど……」

複雑そうに押し黙る。

美菜ちゃんが涙目で怜士さんを見上げた。

「だぁなの?」

こてんと首を傾げる仕草は、雅さんが教え込んだ必殺技。怜士さんは見事に攻撃を受け、うっと声を漏らした。

怜士さんは、会社の社長さんだと聞いている。
急に仕事を休むわけには行かないだろう。

「あ、あの、わたしが行きますので! ね、美菜ちゃんわたしと行こう」

慌てて間に入る。

「凛ちゃんは休暇だっただろ?」
「ええ! 休暇だから美菜ちゃんと遊びにいくんです」

わたしだって美菜ちゃんが泣いているのに、じゃあこれで失礼しますだなんて出来るわけが無い。
動物園は車がないとちょっと大変な立地ではあるけれど、電車とバスを乗り継けばどうにか行けるところでもある。

「りんちゃといく! やったあ!」

美菜ちゃんが飛び跳ねて喜んだ。
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