冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「久しぶりでついはしゃいでしまいました……美菜ちゃんに何事もないようにしっかりしなきゃ」

家に帰るまでが、遠足だ。怪我の無いようにしなくては。
浮かれた気持ちを引き締めようと、ついにやついてしまう頬を摘まんでいたら、怜士さんが真似をして摘まんできた。

「休暇だから、遊びに来たと言っていなかったか?」

そういえばそうだった。雅さんを説得したときと矛盾している。
むにむにと頬で遊ばないでほしい。そんなにお肉があまっていたかな。

太ったのかと心配になった。

「でも、やっぱりお預かりしているので……あれは建前っていうか」

「そうか。仕事だと思っているなら、休日手当てをださなくてはならないな。出張代も入れて多めに……」

「あ! 駄目ですそんなの……わたしが美菜ちゃんと一緒に遊びに来たくて、来ているだけなのに」

思わぬ方向からの指摘だ。
今日は交通費に入園代に、ぜんぶ怜士さんが負担してくれている。

それに、お給料まででたら、どうしていいかわからない。

「そうだろ? 仕事じゃないんだから、一緒に楽しめばいいんだよ。美菜の保護者は俺。難しいことは抜きだ」

「……ありがとうございます。お言葉に甘えて、楽しませてもらいますね」

「よしよし、いい子だな」

怜士さんはわたしの頭をポンとなでた。
衝撃で、かぶっていたバケットハットが目の下まで落ちて視界を遮った。

「わ、わたしは成人してます!」

「わかってるけど、かわいくてつい」

始めて顔を合わせた時は犬みたいと言われて、今は美菜ちゃんと同等のこども扱いだ。

一回り以上も離れていたら、わたしなんてきっと本当に子供に見えるのだろう。

がっかりしてしまう。

きっと、背が高くて美人で、スタイルが良くて、家柄もいい女性が周りにたくさんいるんだ。

意識してしまったのが自分だけなのが悔しい。

「ほら、猿山が見えてきたぞ」

怜士さんが指さすと、美菜ちゃんがきゃーと言って走り出した。
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