冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
たしか、動物園の次の日だ。

あの時は、俺が動物園で弁当のおかずを絶賛したら、凛が次の日に弁当を作ってくれたのだった。

基本出張が多いので、昼は外出先で適当に済ますことが多い。予定が変わることなどしょっちゅうで、社会人になってからは弁当を持つなどしたことがない。

凛にはタコウインナーをまた作ってほしいといったが、朝食や夕食のおかずとしてという意味だった。

朝、出かけ掛けにうれしそうに弁当を差し出してくれて面食らっていると、状況を理解したのか、顔を真っ赤にして弁当の包みを抱きかかえていた。

『すみません、わたしてっきりお弁当が必要なのかと……』

せっかく凛が作ってくれた弁当だ。
結局、ありがたく受け取り食べさせてもらったが、タコウインナーが入っている弁当をもっている自分が面白すぎて、ついにやけてしまった記憶がある。

おかずは前日とは少し違い、きんぴらやほうれん草のソテーなど、大人向けになっていた。
卵焼きは同じ物が入っていて、嬉しかったのを覚えている。

凛の弁当は、とても癒しになった。

昼も凛の食事を食べれるのだと覚えてからは、週に何回かは作ってもらうように頼んでいる。

「なあ、家政婦さんの写真とかないの? 海外のセレブも着飾った社長令嬢も飽きるほど見ている藤堂が、そこまで惚れる女の子ってどんな感じなの?」

凛とは毎日会うわけではないが、話すたびにどんどん仲良くなった。彼女自体がきどっていないのがいいのかもしれない。話しやすくて、一緒に過ごす時間は楽しいと感じる。

社長就任と同時に、別邸として使っていなかった家を改修して独り暮らしをしていたが、
雅と美菜の存在でにぎやかになり、そこに凛が加わった。

もともとは、週一回のハウスキーパーに入られるのも本当は好きではなかったが、今は美菜の世話こともある。

雅は平気そうに見えるが、あれはあれで離婚にショックを受けていたし、仕事と育児の両立に悩んでいるのを知っている。

母は足が少々悪いし、心配をかけたくないと思っているのは知っていて、なるべく頼らないようにしているのもわかっている。

家政婦の話を聞いた当初は住み込みには抵抗があったが、俺も雅も不規則だし、生活の棟は分かれているから、それほど顔をあわせないだろうしいいかと了承をだしたのだった。

それが、今となってはわざわざ三人が寛ぐリビングへ行き、家族のように四人で過ごすことがあるから不思議だ。
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