冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
すべてがハイグレードで、誰もが憧れる特別な街。

わたしも、いつか自分もこんな素敵な街に住めたらと思っていたが、セレブになるまでの道のりは果てしなく遠そうだ。

車窓から、だんだんと近づいてくる豪華な街を眺める。

最初に見えるのは、街のシンボルであるそびえ立つツインタワーだ。

地上七十階建ての超高層ビルで、外資系企業が多く入るオフィスに、展望台やレストラン、高級ブランドショップなども入っている。

展望台に一度行ったことがあるが、レストランやショップはそう簡単に行けるところではない。

この街に来るのは久しぶりだった。

昔はよく家族でタウン内の大型ショッピングモールに来ていた。ショッピングモールの各階は大きなテラスが設けられていて、景色が良いことが有名だ。

屋上も庭園として解放しているので、幼い頃はよく、お父さんとそこで港に着く船を眺めていた。

お父さんは造船部品の製作所を経営していて
「あのでかい船の一部は、父さんが設計してるんだぞ」
と嬉しそうに話してくれていた。

『いつか父さんが造った船に乗せてやるからな。豪華客船だ。船にのって、世界中を旅しよう! そうだ、この街にももうすぐ住めるようになるかもしれないぞ』

それが口癖だったが、会社は倒産してしまいその夢は叶わずにいる。

今では楽しい想い出も苦い物に変わってしまっていて、どうしても切なくなってしまうため、暫く近づくことを避けていた。

悲しい想い出に思考が支配されそうになり、頭を振ってそれを散らした。

(だめだめ、もう終わったことなんだから仕事に集中!)
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