冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「ごめん。でも本当によかった。諦めないで夢をかなえる道を探したからだよな。凛は本当に頑張り屋だ」

「ありがとう。カズ君が頑張ってるの見てたからだよ。負けてらんないなって」

「次の夢はお嫁さんだろ? いつでも叶えてやるからな」

「もう、すぐそうやってからかう。わたしはまだまだ、それどころじゃないんだから」

わたしは記憶がないのだが、小さい時にカズ君に、お嫁さんになるといったことがあるらしく、挨拶のように嫁にしてやると言われるのだ。

「俺もまあまあ稼いでるほうなんだよ? 甘えてくれていいのに」

「ふふ。カズ君は自分で会社立ち上げてすごいよね。どんどん大きくなってるし尊敬してるよ」

「健と勇の面倒だって見れるよ」

「何言ってるの。カズ君に頼るわけにはいかないよ。それに、カズ君モテるんだからいつまでもそんな冗談言ってないで」

「冗談じゃないんだけどなあ……」

カズ君はため息をつきながら、ぽりぽりと頬をかく。

「え?」

「まあいいや。散々待ったんだから、あと数年どうって事ない。やっと健が大学だもんなあ。勇はどうするんだっけ?」

前半はぼそぼそと口の中で話してぜんぜん何を話しているのか聞こえない。

「勇? 進学しないで働くって言ってたけど、本当はやりたいことあるはずなの。我慢しないで進みたい道へ進んで欲しいな」

健だって奨学金で大学に通っているのだ。なんとかなる。

「それは凛も同じだったのに」

「わたしはいいの」

わたしも奨学金という選択肢もあったかもしれないが、当時はそんなこと言い出せる状況ではなかった。今、楽しく仕事をできているから、結果オーライだと思っている。

「カズ君、早くゲームやろうぜー、大会始まっちゃうよ」

健の急かした声が割って入った。

「はいはい、今行く」

やっぱりゲームをやりに遊びにきたようだ。狭い部屋なのだから、もう少し広いカズ君の家にいけばいいのに、いつもうちに遊びにくる。

「ベリが丘なんて金持ちしからいないところで、悪い男にひっかかるなよ。凛は俺のお嫁さんになるんだから」

健の部屋に体を滑り込ませながら、カズ君が言い放った。

「だから、カズ君とは結婚はしないってば」

言い返すと、聞こえないふりなのか「あーあーあー」と声をあげながらぴしゃりとドアが閉まった。

騒がしくしたせいか、お父さんが部屋から出てきた。

鬱がなかなか治らなくて、良くなったり酷くなったりを繰り返していた。

酷いときはカーテンも開けず、ずっと暗い部屋に閉じこもっている。
今日は出てきたので、気分が良いのかな。
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