冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
ちょっと緊張するけれど、怜士さんとの会話は楽しいから好きだ。
その時、怜士さんがあっと残念そうな声をだす。

「それが、俺も今夜から休暇で家を空けるんだ……」

「あ、そうなんですね……」

今夜は怜士さんの好物だけをたくさんつくろうと、すでに頭の中でメニューを考え始めていたから、当てが外れてしゅんとなる。

「今夜からというと……」

「実は、ちょうど大きな仕事を終えて休暇をもらったんだ。一週間ちょっと家をあけるつもりで」

「一週間ほどですね。わかりました」

雅さんと美菜ちゃんも、最低一週間以上は留守にすると言っていた。

聞けば聞くほど落ち込む。
なんだ。本当にひとりっきりじゃないか。

実家に帰っても部屋はないし、仕事をさせてほしいと言って、ここに居させてもらうしかない。

「すまない。雅が居ると思っていたから、言いそびれていたかも」

「いえ、謝っていただく必要などありませんから」

慌てて手を振った。

「ゆっくりできるといいですね。何時にご出発ですか? パッキングがまだでしたらお手伝いします」

無理やり笑うと、怜士さんの手が頬を撫で髪を梳いた。
そっと慰めるように触れる。

「なんだか泣きそうだな。寂しいって思ってくれてる?」

「な……そんなこと……わたしはっ」

わたしは、なんとも思っていない?

――――そうだろうか。

違う。本当はすごく寂しい。

ウィステリアマリンの事もあって、さらに急なみんなの予定が重なり、心細くなっていた。
この家でみんなで笑っていたら、嫌な事も癒してもらえるって思っていたから。
当てが外れて悲しくて、すごく、がっかりしている。

「わたしは……」

「凛、パスポート持ってる?」

怜士さんが、唐突に聞く。

「パスポート? え、ええ。わたし車の免許証を持っていないので、身分証がパスポートで……こちらで雇用していただくときも、雅さんにお見せしましたけど……」

高校を卒業したら、春休みに家族旅行に行こうという計画があったから、家族全員分作っていたのだ。
結局その旅行は行けなくなり、一度も使うことはなかったが。

教習所に通うタイミングも逃してしまって、車の免許がないため、結局、身分証として活用するために持ち歩いている。

「よし決めた。俺と一緒にクルーズ船に乗ろう!」

怜士さんは、嬉々として声をあげた。
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