冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
わたしは超特急で一週間分の荷物をまとめると、セレモニースーツから私服に着替えた怜士さんと、運転手が運転する車に飛び乗り、ベリが丘港まで急いだ。

怜士さんは、わたしが船に乗る為の手続きを電話でいろいろしてくれていたが、こんなに急に人が増えて大丈夫なものなのだろうか。

港に着くと、数時間前まで、視界に入れることさえ疎ましいと思っていた巨大な客船が、目の前にそびえたつ。

(これが、世界一の豪華客船……!)

ショッピングモールより大きい。
ツインタワーも高層ですごいが、それとはまた違う迫力があって圧倒された。

まさか怜士さんの休暇が船の上とは思わなかったし、さらにはわたしまで同行することになるとは、夢にも思わなかった。

しかも、あのウィステリアマリンの船に。
家族に対して、後ろめたい気持ちもゼロじゃない。

しかし乗船手続きが進むにつれて、複雑な気持ちは、徐々に薄れていった。

乗客たちの、チェックインするときの期待に満ちた顔。
船内に足を踏み入れた時のはしゃいだ姿。
乗組員もテンションが高く楽しんで仕事をしていて、ここは素敵な場所なのだと思えた。

「すごい……すごい!」

わたしはずっとそれだけを叫んだ。
ほかの言葉を忘れたみたいにすごいしか出てこない。

全ての設備が規格外で、何を見ても感動していた。

船の中とは思えない造り。船内に土と植物があるのも不思議だし、グランドピアノがあったりもして、え、こんな物まで! という驚きの連続だ。

大人が落ちついてアルコールを楽しめるエリアに、子供が遊んで楽しめるエリア。エリアごとにたくさんのテーマがあるらしく、見たいところがいっぱいでうずうずとした。

「凛は、船に乗ったことはある?」

「小さいころに何度か。でも、釣り船とかクルーザーだけで、大きくてもフェリーとかです。こんなに大きな船は初めてですよ。もう船っていうより移動する島みたい」

「ははは、確かに」

バカンス仕様に変身した怜士さんは、帽子にサングラスをしている。
どんな格好も似合っていて見惚れてしまう。自分がここにいて、こんな凄い人の隣を歩いているのが信じられない。
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