冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「部屋に荷物を置きに行こう」

「どんなお部屋ですか?」

わくわくしながら聞いたが、言ってからはっとする。
怜士さんは、もともとひとりでこの船に乗るはずだったのだ。

(こんな間際で、もうひとつ部屋取れたの?)

……同じ部屋かもしれない。シングルだったら、床かソファに寝ようと決心して後を付いていく。

エレベーターで客室エリアの最上階へ上がると、ここから先VIPエリアと表記されていた。
一般客は入れないエリアらしい。
船内の装飾も、これまでのエリアと変わってラグジュアリーな雰囲気になった。

緊張が更に増して、ドキドキとしながら付いていく。

チェックインで預かったカードが、部屋の鍵になっているらしく、それをドアにかざし解錠すると、怜士さんがどうぞとドアを開けた。

「お、おじゃま、します」

なんて言ったらいいかわからなくて、そう言いながら一歩踏み入れると、そこは船内というよりも高級マンションのモデルルームみたいな空間だった。

いや、違う。
階段があるから、二階建ての一軒家かも。

「ここ、船の中ですよね……?」

ぽかんと開いた口が閉まらない。

「ここは分譲タイプの部屋なんだ。別荘のように暮らしながら移動できる」

分譲ということは、部屋を買うってことか。

船の部屋を買うなんて想像もしていなかった。そんな煌びやかな世界があったんだ。

ワンルームを想像していたのに、広いバルコニーにバスに洗面にキッチンまでついて、ちゃんとベッドルームもある。
バルコニーにもソファとテーブルがあり、海を眺めながら寛げそうだ。

部屋を探検すると、ベッドが四つもあった。それもキングサイズが二つに、クイーンサイズが二つ。
そっか、部屋が広いから誘って貰えたのかも。

とりあえず、寝る場所の問題は無さそうでほっとする。怜士さんのプライベートも、邪魔しなくて済みそうだ。

「いかがですか?」

怜士さんが、執事のようにうやうやしく聞いた。

「とても感動してます……こんな素敵なお部屋で過ごさせてもらえるなんて……ありがとうございます。嬉しいです。一生の思い出にしますね」

もう二度とこんな経験は出来ないだろう。
家具も調度品もすべてが高級だ。目に焼き付けておかなくちゃ。

「一生の思い出にしなくとも、何度でも連れてきてあげるけどね」

さらりと言ってのけるところがさすがだ。
そんな余裕があるところも、怜士さんの魅力のひとつだ。
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