冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
荷物を置くと、すぐに船内を探検することにした。

怜士さんは帽子とサングラスを外さないので不思議に思っていると、「知り合いに会いたくないんだ」と言っていた。

船内はたくさんの人であふれかえる。

なんと最大七千人も乗れるらしい。乗組員も合わせるともっと多いそうだ。

「美容院まである。わ、ジムに整体まで。一つの街みたいなんですね」

「長期滞在の人もいるからね。デッキが賑やかで楽しいよ。見に行こう」

怜士さんは勝手知ったるという感じでわたしの手を引いた。
いつの間にか手を繋いでいる。
怜士さんは優しい。

彼と話せれば嬉しくて、構って貰えると気持ちがソワソワとする。

(好きなのかな……)

そっか、わたし怜士さんが好きなのかも。

ああ、なんて、雲の上の人を好きになってしまったんだろう。でも、こんなに格好よくて優しくて、それでいて仕事も出来る人なんて、これで惚れずに居られる人がいるのかな。

自覚した途端、失恋が決定しているようなもので、わたしは肩を落とした。

優しいのは、美菜ちゃんと同じように子供扱いされているからだ。

わたしなんてきっと恋愛対象ではないけれど、でも、今だけは恋人の気分を味わえるのかも。

繋いだ手をきゅっと握り返すと、怜士さんは一瞬振り返って驚いた顔をしたが、わたしが何も言わずにじっと見上げていると、すぐに笑みを見せた。

「凛は可愛いな」

そして、指を絡めて繋ぎ直す。

混乱と興奮で、どうにかなりそうだった。

デッキに出ると、大きなプールにカラフルなスライダーがいくつもある。スライダーは船の外まではみ出ているものもあって、見ているだけでゾクゾクとした。

ジャグジーや、お酒を持って入れる大人たち専用のプールなどもあり、何層も重なる展望デッキがぐるりとそれらを囲んでいる。チェックインを終えてもう遊び始めて居る人達がいた。

「うわあ、凄い景色!」

海も空も船も、すべてに感動する。

「凛は泳げる? プールでも遊ぼう」

「泳げますけど、水着は持ってきてないです」

「ここでも売ってるよ。言ったろ、必要なものは全部買ってあげるって。プールは明日にして、何か食べようか。船の中はいつでも食べ放題なんだよ。それから買い物して、また探検して……そうだ、バーに行きたがっていたよね。夜はお酒を飲みに行こう」
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