冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~

何度も悩ましいため息が出てしまう。

「はぁ……」

いったい、さっきのあれは何だったんだろう。

怜士さんからの、プールサイドでの突然のキス。それは一瞬の出来事で、軽く触れるだけのものだったが……

「あーもう、なにがなんだかわかんない」

わたしは髪を掻きむしった。

どういうつもりでしたの?
遊び?
挨拶?
その場の勢い?

怜士さんは何事も無かったように普通にしていて、キスについて何も言及しない。
モテるだろうし、こういうの慣れているんだろうな。

(わたしは、初めてだったのになあ……)

ふわりと触れた唇の柔らかさを思い出し、顔が熱くなる。

プール遊びを終わりにすると、部屋に戻ってシャワーを浴びた。わたしは先に浴びさせて貰ったので、今は怜士さんが入っている。

たくさん遊んだせいか、体が怠かった。ベッドに寝転がりながら悶々と考えた。
海外生活も豊富だと聞くし、キスなど深い意味はなくて、挨拶程度なのかもしれない。

きっと怜士さんにとっては、普通のことなんだ。
乗客たちは多国籍で、人前でいちゃいちゃすることだって、露出の高い服だって、人目など何も気にしてなどいない。

「旅行って気持ちが大らかになるしね」

たまたま、したくなったらわたしが目の前にいただけなんだ。

自分を納得させながら呟いていると、突然真後ろから声がした。

「何をブツブツ言っているの?」

スウェットに、上半身裸で出てきた怜士さんが不思議そうな顔をして見下ろしている。

「きゃっ」

綺麗に割れた腹筋が目の前にあって顔を逸らすと、「何を今さら」と怜士さんは呆れていた。

「さっきまで一緒にプールに居たのに恥ずかしい?」

「部屋とプールでは違います!」

「そうなの? 乙女心は難しいな……」

頭を拭きながら考え込む。

「午後はどうしよっか。スケートショーか映画でも見に行く? ああでも、先にお昼だね、何を食べよっか」
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