冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
はっと目が覚めると、バルコニーから見える空は薄暗くなっていた。橙と紺のグラデーションが美しい。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。

「夕方だ……」

起き上がろうとすると、体が動かない。

隣で寝ている怜士さんの腕が巻き付いていた。抱き枕のようになっている。

「ん……」

モゾモゾと体を動かすと、怜士さんがうーんと眉を顰めた。

(かわいい……かも)

寝顔を見たのは初めてだ。いつもより幼く見えた。
さっきまでのことを思い出し、恥ずかしさが込み上げる。

人生とは分からないものだ。まさか、昼間から船の上で初めてを経験するとは思っていなかった。

今だけでもいいなんて思ったけど、怜士さんはたくさん愛してくれた。
わたしの不安を分かっていたのか、ちゃんと好きだから、恋人になろうと言ってくれた。

なんて幸せなんだろう……。

いつもキレイにセットされている髪に触れたくなって梳いてみると、怜士さんが目を覚ました。

「凛……何時?」

体を動かせないので、時計が見えない。

「夕方みたいです」

怜士さんは大きなあくびをする。
一度伸びをすると起きあがった。
一緒にわたしも起きあがると、怜士さんに後ろから抱きつかれた。

肩口に、額をぐりぐりと押しつけられる。

「ああ、つい寝てしまった。ここ二日寝不足だったからな」

「え、寝不足だったんですか?」

驚いて振り返る。

もしかしてイビキがうるさかったとか、他人が部屋にいると眠れない人なのかと思って慌てると、じとっと睨まれる。

「全く警戒してくれない年頃の女性と同室だったもので」

棒読みだ。

「……ええと……」

雲行きが怪しい。

「俺はそれなりに意識して誘って来てるのに、風呂上がりも無防備だし健やかな笑顔で寝ちゃうんだもんなあ」
これ見よがしに溜息をつかれ反論する。

「わ、わたしだって意識してましたよ!」

「ふうん? いつから?」

「……ずっと前ですよ。お話は面白いしお仕事も頑張ってるところとか、美菜ちゃんとも仲良しで、素敵な人だなって思ってて……」

これは本心だ。
もごもごと言うと、怜士さんは満足そうにした。

「俺も、ずっと可愛いなって思ってた」

チュッとほっぺたでリップ音がなる。

「お腹すいたな。何か食べたら遊びに行こう。今夜のイベントはなんだったっけな」

怜士さんはご機嫌に言った。
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