冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「CEO!」

しばらくすると、副船長が早足で駆けつけた。
船長が彼に連絡をしたようだ。

「少し、不安になってしまった乗客がいるから、騒ぎが大きくならないように船内放送を入れてくれ。それと、この方の荷物をまとめる人員も頼む。それと……」

一通りの指示を終えて、医務室までお爺さんを送る。

奥さんの症状を確認したり、ヘリポートの準備をしていたらすぐにドクターヘリが到着した。
どうにか乗り込んだ老夫婦を見送り、大きな荷物は次の港から配送出来るように手配をし、やっと落ちつく事ができた。
無事であるように祈る。

その後は、ごく一部のホテルマネージャーにしか知らせず、非公開で乗船していたことがオフィサー達にバレて、挨拶づくしとなった。

戦々恐々と挨拶をするオフィサーたちに、プライベートであって監査でも何でもないから、いつも通り仕事をしてくれと伝えると、やっと解放してもらえた。

結構時間を食ってしまった。時計を見て溜息をつく。
部屋に戻ると、凛は大人しくベッドに座っていた。
ぼーっとしていたようだが、少し様子がおかしく感じた。

「凛、待たせてごめん……」

声をかけると、顔色が悪かった。

「どうしたの? 怖かった? 船内放送を聞いたと思うけど、具合の悪い乗客をヘリで運んだんだ。だからもう心配はいらないよ」

隣に座って抱きしめると、凛はキュッと俺の服を掴んだ。
突然の出来事でゆっくり説明もできなかった。構っている暇がなくて、あの騒ぎの中置き去りにしてしまったのは良くなかったかもしれない。

「凛?」

「あ、あの、怜士さんのお仕事って……」

不安げに瞳が揺れている。

「――――あ」

はた、と思い出す。
そうだ、俺は凛の前で船の責任者だと名乗ったんだった。

「そうだったね。休暇が終わったら伝えるって言ってたけど……ああ、こんな風に伝わるなら先に話しておけば良かったな」

「この船の、責任者なんですか?」

「正しくは、最高責任者かな……この客船の運営会社、ウィステリアマリングループの社長をしている。
……秘密ってわけじゃなかったんだけど、言うのが遅くなって悪かったね」

「い、いえ。そんな」

凛の顔は少し強ばっていて、緊張した声色だ。
もう少し段階を踏んでゆっくり説明したかったのに、突然で驚かせてしまったのだろう。

「今さら、そんなに固くならないでよ。俺がなんの仕事をしてようと、凛は俺の恋人で、俺たちの関係は変わらないんだから」

くだけて見せると、凛はこくりと頷いた。

「おいで、ひとりにして悪かったね。寂しかっただろ?」

膝の間に入れてヨシヨシとすると、凛は抱きついて甘えてきた。

小さな体を堪能する。
こんなに弱々しくなるなんて。
初めての船のトラブルで、びっくりさせてしまったんだ。
その時の俺は、どうやって元気にさせようかとそればかりを考えていた。
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