冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
それから、およそ二週間後の週末の土曜日。

お父さんは通院で、お母さんはその付添。勇は部活に行っている。

一週間だけお父さんの看護で誤魔化して、それでもわたしは何も決められず、動くこともできなくてさらに一週間期間を延ばして、時間稼ぎをした。

怜士さんとは、メッセージアプリでのやりとりはしていたが、電話は泣いてしまいそうで避けていた。

でも、誤魔化すのも限界のような気がしていた。
とにかく、嘘を重ね続けている今がしんどくてしかたがない。

最低だ。
怜士さんも家族もたくさん心配してくれているのに、わたしは耳を塞いで閉じ籠もっているだけだ。

あんなに大切にしていた仕事なのに、それも出来ていない。
これ以上休みを貰うわけにはいかないし、ちゃんと、会ってお別れすると話をしないと。

話をしに行かなくちゃと毎日思っていたのに、それでも動けなくて、足踏みしてしまっていた。

雅さんにも迷惑をかけられない。辞めるなら辞めると言ってケリをつけなくてはならない。

電話をかけなくてはと、朝からずっとスマートフォンを握りしめている。
憂鬱だった。
何も知らなかった時間に戻りたいと、何度願った事だろう。ほんの二週間前は船に乗って、すべてに感動していたのに。


今日は怜士さんがお休みだと聞いている。
会いに行って終わりにするのならば今日だ。これ以上引き延ばしても良いことはない。

そんな時、カズ君が家を訪ねてきた。

「こんにちはー。おじゃまします! 健~来たぞー」

またゲームの日らしい。リビングに顔を出したカズ君に挨拶をする。

「カズ君……こんにちは。いらっしゃい」

「カズ君遅いよ! 早くログインして」

部屋から顔を出した健とわたしは、同時に返声をかけた。

「これ、みんなで食べて」

カズ君が渡してくれた紙袋には、カラフルなカップゼリーが入っていた。

「わあ、美味しそう。いいの? いつもありがとう」

そう言って受け取ると、カズ君はじっとわたしを見つめる。
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