冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「凛が食欲がなくて伏せってるって聞いたから食べやすいやつ……なんかやつれたよな?」

「そうかな? 自分じゃわからないな。ダイエットしてたからちょうどいいよ」

笑って誤魔化すと、カズ君は怪訝そうにする。

食欲がないだなんて、誰が連絡したんだろう。
お母さんか健だ。勇は部活とバイトであまり顔を見ていないし、お父さんではないような気がする。

健の部屋を振り返ると、扉の隙間からこちらをうかがっていた。

「健ね! カズ君に変なこと言わないでよ」

健はぎくりとしてから開き直る。

「変ってなんだよ。ずっとこの世の終わりみたいな顔でいて、心配するに決まってんだろ」

「そうだよ、凛。明らかに痩せてる。急に帰ってきたって聞いてるし、どうしたの。雇用主に虐められたとか? なんかトラブルがあった?」

カズ君は健に同意した。

「ううん。そんなのないよ」

「じゃあ、一体どうしたの? 困ってるなら相談に乗るよ」

話せることがなくて俯いてしまう。

「別に……何も……」

「何もないだなんて、すぐバレる嘘は無しだからな。みんな心配してるし、ひとりで抱えすぎるのもよくないと思うけど」

嘘と言われドキッとする。
もう、隠すのも限界だ。

健も神妙な面持ちでわたしが話すのを待っている。
ずっと声をかけてくるって事はなかったけれど、気を遣わせていたらしい。

「あの、実はね……」

その時、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。

タイミングが悪すぎる。
振り絞った勇気が萎んでいくようだった。

「あ、あの、とりあえず先に対応してくるね……」

わたしは気を取り直して、来客の対応をするために、玄関にむかった。
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