冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
腕は擦り傷と打ち身だけで大した事がなかったので、持っていたカーティガンを羽織ってなんとか一日の仕事凌いだ。

新しいお宅という緊張もあって、どっと疲れがでた。
シャワーを浴びて早くベッドに飛び込みたい。

「ただいまあ」

「凛、お帰りなさい。今日なんかあったの? 警察から電話があったんだけど」

お母さんが不安そうに出迎えた。

「え、なんて言ってた?」

「詳しく聞けなかったんだけど、折り返しの電話が欲しいって言ってた」

これから事情聴取は勘弁願いたい。
もし署まで……と言われたらなんて断ろう。
恐る恐るかけ直す。

「芦沢凛さんですね。今日、お子さんを助けてくださったとき財布を落とされてました。預かっておりますので、お手数ですが取りに来ていただけますか?」

慌ててバッグの中を確かめると、確かに財布がない。
しまった。
電車は交通系カードだし、とくに現金も使うことがなかったので全然きがつかなかった。

「わかりました……」

届けられた場所はベリが丘の警察署だ。
明日の仕事が終わってから往復するしかない。用もないのに行くのは手間で、がっくりと項垂れる。

「あと、お子さんのお母様から伝言ありまして」

「はい?」

「お子さんはかすり傷だけでなんともなかったそうです」

「そうですか、よかった……」

たくさん泣いていたのは、びっくりしたのと怖かったからだろう。トラウマがなければいいが、とにかく無事でよかった。

「どうしてもお礼を伝えたいそうです。できれば、なるべく早く連絡が欲しいとのことでした。お相手の連絡先を預かっているので、メモをお願いできますか。ご連絡するかどうかはお任せします」

お礼など要らないのに、気を使ってもらってしまい申し訳ない。
貰った携帯電話の連絡先は、女の子のお母さん、藤堂雅(とうどう みやび)さんという方だ。わたしは警察署との電話を終えると直ぐに教わった番号にかけた。

ツーコールで出たのはハキハキとした元気な声。

『もしもし、凛さんですか?!』

電話の向こうから『ママあ、おねえちゃとおでんわしゅるの?」』とあの女の子の声も聞こえる。

その可愛らしい声に癒されて、一日の疲れが吹き飛んだ気がした。
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