冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「ASHIMORIとは、ロイヤルグリシーズのプロジェクトで、一度は契約まで行われています。

前CEOが急逝され、あなたがプロジェクトを引き継ぐ前に契約は解除されているので、名前を聞き覚えがないのも無理がないかもしれません。

しかし、かわりに別の会社と、まったく同じ部品の同じ工法で、ASHIMORIよりも安価で契約していました」

「どういうことだ?」

「当時契約に関わった社員が辞めていて、連絡もとれないし調査が難航していますので、詳細はまだ調査中す。
……しかし、現段階で分かっていることは、その部品の工法はどうも、ASHIMORIが開発したものかもしれないということです」

朝倉は苦い顔をする。
なんとなく見えてきた。

開発技術を別会社に盗ませ、安く契約をする。
そしてASHIMORIの首を切り、ASHIMORIは倒産……。

ウィステリアは完全な被害者ではなさそうで、頭が痛い話になってきた。

「うちに、その悪事を手引きした社員がいたということだな?」

資料をめくると、その社員の履歴書や過去の社員データがあった。

営業成績は悪くはなかったようだが、強引すぎる手法で下請会社からは良くは思われていなかったようだ。

記録からも、コンプライアンスを無視した営業を繰り返していたとの記載があり、ため息が出る。
ひとりの社員の行いで、会社全体が悪く見られてしまうのは避けたい。

(もう少し、コンプライアンス教育に力を入れなくてはだな)

今後の会社の方針を考えながらさらにもう一枚めくると、ASHIMORIの情報が記載されていた。

事件を起こした中森とその家族。
息子がひとり。
これは以前に報告を受けていた。

――――そして、一緒に会社を経営していたのは、芦沢豊(あしざわゆたか)。

「芦沢……?」

家族の名前の欄には、「長女、凛」と書かれている。
芦沢凛。
写真はないが、年齢、弟がふたりと俺の良く知るあの子と情報が一致していた。
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