冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
悶々と一晩中考えて、次の日の午前中に凛の実家へ向かった。
ろくに寝られずに寝不足だ。

情けないことに、大切な商談以上に緊張している。
そんな自分に、いつのまにか、どれだけ凛を愛していたのかと思い知らされる。

凛の家はお世辞にも綺麗とは言い難い古びた団地だった。
元々はベリが丘近くのマンションに住んでいたようだが、倒産をきっかけに引越をしていた。
こういった環境も、自分の会社が影響しているのかと思うと胸が痛んだ。

運転手を外に待たせて、ひとりでゆっくりと階段を上る。
気分のせいか階段は薄暗く感じ、鈍色に囲まれより気分を暗くさせた。

緊張しながらたどり着いた凛の家には、知らない男が居た。
事件を起こした中森の息子だった。

目が合った途端に敵視されて、この男も彼女を好きなのだとわかった。

「藤堂怜士? なんかの冗談だろ。ウィステリアマリングループのCEOだよね……なんでそんな奴と付き合ってんの」

中森は凛を責めた。
凛の瞳が悲しげに揺れる。
凛が恐れていたのはこれだったのだと、気がついた。

「そんな奴とは、聞き捨てならないな。」

「汚い手法で世界一に躍り出た会社のトップが、偉そうに言わないでくださいよ」

「なんだと?」

ピクリとこめかみが動く。
この三年間の努力を知らずに、何寝ぼけた事を。
俺は、世間に顔向けできないような仕事は一切していない。

「ウィステリアマリンのせいで凛と俺の家族は散々な目にあったし、大変なのは今だってそうだ。
あんたたちの会社のせいで、俺たちは将来が変わるほどの経験をしたんだぞ。
それなのに、よく付き合っているだなんて言えるな……凛を騙しているんだろ。何がしたいんだよ。嘲笑っているのか?!」

「違う!」

「違う? 何がです?」

「凛とは、お互いに何も知らずに出会ったんだ。騙していたわけじゃない。俺たちの事を知りもしないのに知った口をきくな。

――――それと、ASHIMORIの件は調査中だ。
ウィステリアが倒産のきっかけになったかもしれないが、その後の会社の立ち行きが怪しくなったのは経営手腕にもよるんじゃないのか? 

これまでのことは酷だったとは思うが、すべてをウィステリアの責任にするのはお門違いだ」

ここで言うべき事なのか悩んだが、代表として会社を侮辱されるのは黙っていられない。
凛を大事にしたい気持ちと、会社を守りたい気持ちは、同じくらいある。

凛なら、個人的な気持ちと経営者としても気持ちは違うことをわかってくれるのではと思ったが、しかし彼女は絶望的な視線を寄越した。

涙を溜めて、俺を責める。

「……俺は、君と会社についての討論をしにきたわけじゃない。三年前の件については、先ほども伝えた通り調査中だ。当事者には、全貌が解明しだい報告させてもらうくらいの誠意は見せるつもりだ」

「はッ……他人事かよ」

中森は吐き捨てるように言った。
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