冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「責任を取らないわけじゃない。わかるまで待って欲しいと言っているだけだ。
全面的に非があれば謝罪しよう。
……言い訳かもしれないが、ASHIMORIの契約と倒産は、俺がプロジェクトを引き継ぎ、CEOに就任する前の話だ。……その話を、凛にしにきたんだ。凛、おいで。ちゃんと話そう」

手を差し出すと、凛は迷っていた。

「――――ごめんなさい。どうしたらいいかわからないんです。怜士さんが好きな気持ちは変わらないのに、この手をとったら、それが家族を傷つけてしまう気がして……」

「俺も、凛が好きだよ。その気持ちは変わってない」

そういうと、凛は瞬きをして涙をこぼした。

「怜士さん」

震えながらも、徐々に伸びる手をとろうとしたとき、横からさらわれる。
中森が、阻止をした。

「凛! 何やってるんだ。こいつは凛のかたきだろ! 俺たち家族を苦しめた張本人だ! そんな奴の手を取るなよ。
凛まで家族を悲しませてどうするんだよっ。俺たち苦労したじゃないか。諦めることがたくさんあって、悔しくて一緒に泣いたじゃないか! 忘れたのかよっ」

中森が後ろから凛を抱きしめた。
あと少しで触れられると思ったのに、彼女がまた遠くなる。

「帰ってくださいよ。話すことなんてない!」

中森は凛を背中に隠した。

「カズ君、やめて。もうやめて」

凛は泣きじゃくる。


「かたき? 俺が、凛のかたきだって……?」

はっと空気を吐き出す。
中森はつくづく失礼な物言いをする。
反発したが、同時にひどく傷ついた。
凛に恨まれているのだと思うと胸が苦しい。

「な、なあ、警察とか、呼ぶ……?」

家の奥から控えめな声がした。廊下の奥をみると、男がドアの隙間から恐る恐る顔をだしている。

目元が凛と似ているから、たぶん弟だろう。
手にはスマートフォン。何も法に触れるようなことはしていないが、通報は勘弁してもらいたい。

睨まれて、溜息をつく。

敵を作るような仕事は、しないようにしていた筈なのに。

潮時か……。これ以上ここで粘っても、良い結果が出ないことは明白だ。
それでも最後に一度聞いておきたい。

「すぐに帰るから、通報は待ってくれ」

俺は弟に告げてから、凛を見た。

「凛、教えて。君も……俺がかたきだと思ってるの?」

凛はびくっと体を震わせた。
何か話そうとしたが、口を開けたが、それもすぐに閉じて俯いてしまう。

「凛、無理するな」

中森が口を挟んだ。
俺と凛の話なのに。
中森が凛を守っていて、その役目は俺じゃないのかと憤った。
でも、凛は答えない。
それが、彼女の答えのような気がした。

「突然悪かったな。帰るよ」

ため息をつくと、踵を返した。
悔しいが、ここは引くしかない。

「あ……」

やっと、微かに凛の声が聞こえたが、振り返る気力はなかった。

背中でガシャンと鉄のドアが閉まる。
コンクリートに囲まれた階段にそれは響いた。
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