冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
今さら告白したって、もう怜士さんは戻ってきてくれないけれど。

「謝らなくていいのよ。そんな必要はない。
お母さんも別にね、特別に恨んでるとかないのよ。仕事の話は専門的で難しいことがたくさんあったし、いまだに理解できてないことも多くてね。

お母さんはただ、これまであなたたちに我慢をさせて、経済的にも頼ってしまった事を申し訳なく思ってるだけなの」

すると、それまで黙っていたお父さんが口を開いた。

「俺が不甲斐なくて、みんなには迷惑をかけたな」

「父さんは悪くないだろ」

「そうだよ、何いってるんだよ」

健と勇が口々に言った。

「テレビで、何度も宣伝してただろ? ウィステリアマリンの出来上がった、でっかい船をみてさ。あの船の寄港式が、自分の中で一区切りがついた瞬間だった。ああ、終わっちまったんだなぁって思ったんだ。
中森も俺もいつもでも過去に囚われて伏せっていてさ、このままじゃ駄目だなって。

技術を盗んだ奴は今でもゆるせねぇよ。でも、盗まれた自分たちも、管理が甘かった点もあったし、よくよく聞けば中森のやつも居酒屋で機密をべらべらと喋っちゃってたらしくてさ……過失はゼロじゃないってことなんだよな。

業界からは、ASHIMORIが泥棒したみたいに言われたことが悔しくて我を忘れちまったけど、再建できなかったのは、俺たちが文句しか言わなくて、頑張る方向間違えたからでさ」

お父さんはばりばりと頭を掻いた。

初めて語ってくれた気がする。
こうやって話せるようになるにも、年月が必要だったのだろう。

「もっともっと、頑張ればよかったって、今なら思えるんだ。家族みんなには申し訳なかったし、感謝もしてる。凛には……一番我慢させたかもしれないな」

「そんなことないよ……」

涙がでてきた。

「文句も言わずに家族を支えてくれたし、俺のせいで一度は諦めなくちゃいけなかった夢も、自分で叶えようと頑張っていたな。努力して、やっと好きなことをやり始めたときはさ、すげえなって尊敬したんだ」

会社を終えてから、勉強していた時期を思い出す。
学校を終えて遊びにいく友達を、羨ましいと感じたこともあった。

(見てくれていたんだ)

「お父さん、ありがとう……」

そしてお父さんは照れくさげに言った。

「お前は自慢の娘で、凛のことは信用してる。俺はなぁ、そんな娘の、好きになった男にまで文句言うほど落ちぶれてないぞ。お前が好意を持ったんだ、悪い奴じゃないって思いたいじゃないか」

「お父さん……」

ぐすっと鼻をすすると、横から明るい声が割って入った。

「オーラ凄くてさ、すげえ怖かったけどイケメンだったしな! 悪くないんじゃん? 悪い奴だったら、俺も殴りにいってやるからな」

健だ。
お母さんが呆れて、ぱしりと健の膝を叩いた。

「あんたは言うことが軽すぎんのよ! イケメンなのは関係ないでしょ。もうすぐ社会にでるのに、そんなんでどうするのよもう」

「どのくらいイケメンなの? 俺もあってみたかったなぁ」

勇は、自分だけあまり状況を把握できていなかったことを嘆いて拗ねていた。

「有名な人みたいだし、検索すればすぐに写真でてくるよ。会社のホームページにもでてるぞ」

健が教えると、ふたりは一緒に検索をし始めた。

「それで、凛はこれからどうするの?」

お母さんが聞いた。

「もう一度、怜士さんと話してくる。お仕事の契約のこともあるし……」

家政婦は辞めなくてはならないだろう。
自分の会社を恨んでる家政婦が家にいるなんて、まるで昼ドラみたいだ。

「自分のしたいようにするのよ」

「うん。ありがとう」

「先ずはもう少し食べてね。全然食べてないから心配よ」

「うん」

家族に話をできたら、だいぶ気持ちがクリアになった。
怜士さんとも、ちゃんと話ができるはずだ。
もう好きではないと言われても、自分の気持ちだけはしっかりと告げようと心に決めた。
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