冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「こんな体調でちゃんと話せるのかな……」

洗面に凭れて、吐き気をやり過ごす。
出直すべきかもしれない。でも、せっかく約束したのにという気持ちもある。

また時間をあけたら、また勇気が萎んでしまう気がしてたし、逃げたと思われるのも嫌だった。

休憩していたら少し楽になったので、とりあえずまた電車に乗る。気安めにならないかと、売店でレモンの飴を買って、舐めながら行った。

飴を舐めていると楽だった。ストレスで胃が荒れているのかもしれない。
なんだか体が重たくて疲れやすい気がした。休み休み進んだら、駅での待ち合わせに遅刻してしまった。

電車を降りて駅のノースエリア側のロータリーに向かうと、怜士さんが手配してくれた黒塗の車が待っていた。
運転手が外にでて、待ってくれている。

運転手さんに会うのも久しぶりだ。会釈をした。

「遅れて申し訳ありません」

「いいえ。どうぞ」

運転手さんが後部座席のドアを開けてくれる。
怜士さんが座っているかと期待したけれど、そこには誰もいなかった。

何度か乗せてもらった時は、いつも隣に怜士さんがいたから、今日もいると勘違いしていた。

(別れる相手を迎えにくるはずないよね……)

それだけで気落ちして、泣きそうになる。
頑張れ頑張れと自分の頬を叩いた。

駅から怜士さんの家までは徒歩では十五分ほどの距離でも、車ならあっと言う間だ。乗っている時間は五分もなかったのに、また気分が悪くなってきて、飴を舐めた。

藤堂家につくと、離れていたのはたった数週間なのに、なんだか懐かしく感じた。
家を見上げ、深呼吸してから玄関へ入る。
すると、雅さんと美菜ちゃんが出迎えてくれた。

「りんちゃ!」

美菜ちゃんがリビングから走って来た。
膝に抱きついた美菜ちゃんを受けとめる。一瞬ふらりとしたがなんとか耐えた。

「美菜ちゃん! なんかおっきくなってるね!」

こどもはすごい。たった三週間なのに、背が伸びた気がする。

「しゃみしかったねー」

「うんうん。寂しかったよ。会いたかった」

抱きしめるとおひさまの匂いがした。ああ可愛くて癒される。
この子のお世話も、もう出来なくなってしまうんだ……。

「凛ちゃん、元気だった?」

「雅さん。ええ。お久しぶりになってしまいましたね」

「も―、帰ってきたら凛ちゃんいなくて大変だったのよ。怜士が突然、凛は今家のことが大変で実家に戻ってるから、頼れないからしばらくは自分で何とかしろって言うでしょー。わたし凛ちゃんのごはんが恋しくて楽しみにしてたんだよ~」

「ふふ。アメリカはどうでしたか?」
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