冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
「凛にも話しておくけれど、----まずは、ASHIMORIとの契約の話だけど、うちの元社員が裏取引をしていた証拠がでてきたよ。

技術を盗んで他の会社に買い取ってもらい、安く取引をできるようにして、ウィステリアマリンとその会社を契約させる……その男はすぐに会社を辞めていたが、見つけ出して、うちの法務部が動き出している。

お父さんと中森さんには、そのことを話して謝罪をしたよ。
受け入れてくれるかどうかはまだこれからの話になるんだけど、当時の会社の保証と、元社員の再雇用の話をした。ふたりにその気があれば、ウィステリアマリンで働かないかと提案してある」

「じゃ、じゃあ、ひとまずお父さんたちの汚名は返上できたんですね」

難しいことはわからない。
でも、お父さんは泥棒なんかじゃなかった。
まず、それがわかっただけでもうれしかった。

今まで辛かったことが走馬灯のように思い出されて、涙が滲む。

「凛にも、辛い思いをさせて申し分けなかった」

怜士さんが膝に付くほど頭をさげた。

「怜士さんこそやめてください……今は社長としてじゃないって言ってたじゃないですか。ちゃんと調べていただいて、ありがとうございました」

「そうだった……」

怜士さんは頭を上げると、しまったと苦笑いをした。

「隣へいっても?」

控え目に聞かれる。

今日の怜士さんは自信がなさげで、わたしはなんとも言えない母性本能のほうなものが溢れた。

やっぱり、疲れているのかな。
大丈夫ですよと癒してあげられたら、どれほど良いだろう。

でももう、別れてしまったら、これから先ご飯を作って労ってあげることも出来ない。

「は、はい。もちろんです」

この家に自分ではない女の人が来て、怜士さんと笑いあうところを想像したら一気に落ち込んだ。
この先、彼の隣に立つ人はどんな人なんだろう。

怜士さんは隣に座ると、わたしの手を取って両手を包んでくれた。

「また痩せた気がするな……」

怜士さんは手を撫でて、真剣な顔をする。
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