冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
(幸せ……)

じわじわと、体中に広がる幸せを噛みしめる。
緊張で強ばっていた心と体が、癒されていく感じがした。


「りんちゃチューしてう!」

突然、背後から飛び込んできた声に体が飛び上がった。

「あっコラ、美菜ってば、しーっ! しーだよって約束したでしょ!」

振り向くと、リビングドアの影にふたりが隠れていた。
雅さんが美菜ちゃんの口を押えて慌てている。

ふたりはいつからそこに居たのだろう。
今までのスキスキ言っている会話もいちゃいちゃも、みんな見られていたのか。

「雅、悪趣味だな」

怜士さんがふたりを冷めた目で睨んだ。

「だ、だって、凛ちゃんの雇用主はわたしだし? 美菜のお世話してくれる人がいなくなっちゃうと困るし? それに……ふたりには幸せになってもらいたいじゃない。

お互いに好きなのに、一緒にいられないなんて寂しすぎるもの……」

雅さんはもじもじとしながら言い訳をした。
心配してくれていたことは伝わって苦笑する。

「俺は別れる気はさらさらなかったし、別れたいと言われたって諦めるつもりはなかったからな。逃げられたら追う覚悟暗いしてたよ」

「怜士さん……」

「さすが我が弟! 頼もしいわ!」

雅さんがはやし立てる。

「ねー、りんちゃ。みーちゃともちうしよ! ちう!」

雅さんに捕まったままの美菜ちゃんが、手足をばたつかせて暴れている。さっきはチューと言えていたのに、いまはちうになってしまっているところが微笑ましい。

「駄目だ。凛は俺のだぞ。ちゅーも俺だけのものだ」

怜士さんが挑発してわたしの肩をだくと、怒った美菜ちゃんが突進してきた。

「みーちゃも! みーちゃも! りんちゃとちうするの――‼」

好いてくれるのは嬉しいけれど、相手が怜士さんじゃなくてわたしなのが不思議だ。
プリンセス映画に出てくる王子様のように格好いいと思うのに、憧れたりしないのかな。

「あっ美菜っ」

美菜ちゃんは叫ぶと、雅さんの腕を振りほどき突進してくる。
とたとたと走り、ジャンプをしてわたしに飛びついてきた。

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