冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
部屋には、怜士さんとわたしだけになった。
雅さんは気を利かせて、ふたりきりにしてくれたのだとわかったが、一体、なんの話をされるのだろう。

見当もつかなくて不安が押し寄せた。
暫くの間、閉まった病室の扉を見つめていた怜士さんが振り返る。

「凛、君は気がついていないようだから、俺の口から言わせてもらうよ」

ピンと張りつめた空気。
鼓動が早まっていく。
怜士さんは慎重に話した。

「俺は君に、申し訳ないと侘びるべきか? それとも、この奇跡に感謝をするべきなのかな」

何を言っているのかわからなくて、眉を顰めた。

「な、なんです……? 怜士さん、なんのお話ですか?」

「ああでもやっぱり、俺は……まずはありがとうと、君に伝えたい」

怜士さんはわたしの手を両手で包むと、祈るように自分へと引き寄せる。

「凛の体調不良は、赤ん坊を授かったからだ。風邪じゃない」

え? と聞き返したつもりだったが、出たのは空気だけだった。
ぼんやりと、伏せた怜士さんの睫毛だけを見る。
睫毛が揺れている気がした。
いや、揺れているのは、自分の瞳なのかも。

「医師の診断だ。間違いなく妊娠しているんだよ。俺と、君の子だ。そうだろ?」

「赤ちゃんが……わたし、妊娠してるの?」

「そうだ」

「怜士さんの、赤ちゃん……」

今までの体調不良は、つわりだったってこと?

そういえば、そうだと言える症状はいくつもあった。
気持ち悪かったり、匂いに敏感になったり……。微熱も感じていた。

お腹にそっと手を当てる。まだ、何も分からないけれど、ここに、命が宿っているんだ。
それに気がついた途端、お腹が熱を持った気がする。
赤ちゃんがここにいるよ、と主張してくれている気がして、不思議な気持ちになった。

思い当たるのは、船での行為だけだ。
怜士さんは避妊をしてくれていたから、生理が来ないのもストレスが原因だと思い込んでいた。
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