冷徹社長の溺愛~その人は好きになってはいけない相手でした~
点滴が終わったのは夜遅くで、わたしは病院に一泊だけすることになった。
怜士さんも一緒に泊まってくれて、美菜ちゃんも泊まると言って大泣きしていたが、明日必ず帰ると約束して、先に帰宅してもらった。
次の日の朝、産婦人科で改めてしっかりと検査をして、妊娠六週目だとわかった。
エコーで見えた小さな豆のような袋。まだ人の形もなにも出来ていないのに、トクトクと動く心臓だけが見えて、なんとも言い表せられない喜びで全身が満たされた。
なんて可愛いんだろう。
小さな小さな胎嚢が、愛おしくてたまらない。
これが母性ってやつなのかな。
「動いてる……すごいな……」
一緒にエコーをみた怜士さんも、感動したようで言葉を詰まらせていた。目が真っ赤になっていて、それを見たわたしはさらに嬉しくなった。
帰り際、もう母子手帳がもらえるらしく、役所で発行してもらってくださいと病院から書類を渡された。
今度ふたりで貰いに行こうと話している。
午前中には退院できて、運転手さんが迎えにきてくれ、
わたしはひとまず、怜士さんの家に帰ることになった。
「ああ、どんな子だろう。男でも女でも、海に因んだ名前をつけていいかな……海のように広い心の持ち主になって貰いたいし、どんな荒波にも、逃げずに立ち向かえる人間に育って欲しい」
怜士さんはわたしのお腹を摩りながら言った。
気が早いなあと思うが、海に因んだ名前は、なんとなくわたしもそう思っていたところだ。
病院を出てからもずっと、診断でもらえた写真を、飽きることなくふたりでずっと眺めている。
わたしはこれからも、雅さんと美菜ちゃんのお世話は、無理のない程度で続けさせてもらえることになった。
怜士さんは仕事をすることに不安そうだったが、つわりが大変なのは今だけらしいし、どうせ一緒の家で暮らしているのだから、それくらいはやらせてもらいたい。
怜士さんは妊娠が発覚してから、母体や赤ちゃんについて、いろいろ調べていた。
その仕事の早さは、さすがと言うべきか。
良いことと悪いことをこんこんと説明してくれ、走るな重いものを持つなとちょっと口煩い。
それは、過保護すぎると雅さんが呆れるほどだった。
わたしも、育児について基本的なことは勉強しているものの、実際に自分自身のこととなるとわからない事があったので、経験者の雅さんに色々教わろうと思う。
「凛のご両親には土下座でもなんでもして許しを請うよ。殴られてもいい。でももう二度と君と離れたりしないからな」
会社のことが完全に解決したとは言えないのに、結婚と妊娠を伝えなくてはいけないのは、少々分が悪い。
「ふふ、ありがとうございます。でも、お父さんは殴ったりはしないですよ」
そういうキャラではない。反対はしないとは思うが、どうだろう。
「いや、父親は娘が他の男に取られるとなると、突然荒れ狂って豹変するものだ」
怜士さんは何かを思い出したのか、半眼になった。
もしかして、雅さんの時になにかあったのかな。
話をしていると、すぐに怜士さんの家に着いた。
「挨拶はいつにする? それを済ませておかないと他を進められないから、できるだけ早くがいいけれど。凛のご両親の都合ってわかる?
挨拶が終わったら正式に引越しておいで。部屋も客室から俺の部屋に移動しよう。
引越やの手配をしておかないと。
あ、ついでに子供部屋も作っておくか? コーディネーターも呼んでおくかな……」
怜士さんの頭はフル回転だ。