笑顔の眩しい腹黒王子は、固い扉を蹴り破る
 明日は二十四歳になる皇太子、ローレンスのお妃選びが執り行われる予定である。
 ここ数日は城を挙げてその準備に追われているのに、モニカだけがこんなところで油をうっている場合ではない。

 しかし……辺りはしんと静かで、誰の気配もなくて。たとえ助けを呼んだとしても誰も――――
 

「誰も来ないね」

 驚いた。
 てっきり一人きりだと思い込んでいたのに、背後の暗闇から声がしたのだ。
 勢いよく振り向くと、書棚近くに一人、誰かが座っている。

「誰……!?」 

 モニカと同じく閉じ込められたのだろうか。……けれど、その割には声が明るい気もする。こんな状況で、よくもまあ……と思っていたが、聞き覚えのあるこの声、この口調。
 この方は、もしかして―― 

「もしかして、ローレンス殿下!?」
「あたり」
「な、何をしていらっしゃるんですか! このようなところで!」

 そこにいたのは、まさかの人物であった。
 明日の主役、皆の憧れ。麗しの皇太子ローレンス。
 明朝、広間でお妃選びをしなければならないその人が、こんな埃だらけの物置部屋で、なぜか侍女と閉じ込められている。
 
< 3 / 11 >

この作品をシェア

pagetop