あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…そんなに、分かりやすい?」
空蒼的にはポーカーフェイスだと思っているのだが、どうなんだろうか。
自分では気付かないうちに顔に出ていたのだろうか。
「うーん…よく分からないけど……空蒼は今、新選組について悩んでいるって事は分かるかな」
「エスパー…」
「えすぱー?」
「…何でもない」
ここまで読まれているとはこれはもはや空蒼がって言うより、楓が普通に凄いのではと思ってしまう。
楓は人の気持ちを汲み取るのが上手いのかもしれない。
(…言わない後悔より、言った後悔の方がずっと良い……か)
楓はきっとその場面を経験したのだ、じゃないときっぱりとそんな事言えないと思う。
空蒼は楓みたいに人の心を読むのは得意ではないが空気を読むことくらいはできる。それを聞くのはもう少し仲良くなってからの方がいい気がした。
「…あ!もうあんなに人が出てる!早く開店準備しなくちゃ」
「?」
その楓の言葉に外を見やると、ここに来た時よりも沢山の人々がお店の前を横切っていた。
時間の計り方が独特だなと思っていると、楓は立ち上がり、お盆を手に持っていた。
「ごめん空蒼!私はお店の開店準備に取り掛かるけど空蒼はゆっくりしていって」
「…いや、あたしは…俺はお暇するよ」
そう告げると、空蒼も立ち上がった。ずっと座っていたので身体が痛い。
女性モードになっていたのを男性モードに切り替えて、身体を伸ばす。
「んー!…ふぅ……」
両手を組んで上に伸びをする。
時折ゴキッっと骨が鳴るのは気にしないでおこう。
「…考えはまとまった?」
そんな空蒼を見て、不安げな表情をする楓。
そこまで親身にならなくてもいいのに。
「分かんない…けど、自分のやるべきことは決まった」
「そう……また来てくれる?」
「っ……」
そうか。さっきの不安げな表情はただ単に心配してくれているのではなく、また会えるか分からないその恐怖に怯えていたんだ。この時代はいつ命を落とすか分からない。楓もきっとそのことに気付いているから聞いて来たんだ。
それに、空蒼が新選組ともなればより思うだろう。命を懸けている新選組は命がいくつあっても足りないから。
(…新選組じゃないって言ったのに…勘の良い奴め…)
最初会った時は物静かな大人しい女性だと思ったが、蓋を開けてみれば好奇心に溢れ、話しやすい元気のいい女性だった。
まさか自分がここまで人に心を許すとは思いもしなかった。それだけ、話しやすいというか、親しみやすいというか、上手く言えないけど、楓はとてもいい人だ。そんな人だから空蒼も心を許したのかもしれない。
時間なんて関係ない、もしかしたら相性が大事なのかもしれない。
今まで空蒼に酷い事を言ってきた人達はきっと、空蒼と相性が悪かった。だからお互いが反発しあって上手くいかなかった。
それなのに、関りがほぼ無い楓とはこんなあっさりと打ち解けている。これはもう相性と言わずして何だと言うのだろうか。