あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「…はぁはぁ……おいお前、どうして逃げたんだ」
「……。」
三人のうちの一人が話しかけてきた。
見る限りだと、この中で仕切り役に見える。リーダー的な存在なのだろうか。
「おい、聞いてるのか?」
そんな様子を他の二人は静かに見守っている。
どうやら危害を加えるつもりは無いようだ、敵ではないのかもしれない。
「……付いて来られたら誰だって条件反射で逃げるだろ」
付いてこられる理由に覚えが無いのなら尚更。
誰だって不気味に感じて逃げるはずだ。そんな事も分からないとはやはり馬鹿なんだなと三回目の馬鹿だと心の中で思った。
「あー…そういうものか」
「そういうものだ」
自分がその立場になってみたら分かる。
逃げずには居られなくなるのだから。
リーダー格の男はうーんと唸った後、忘れてた!と思い出した様に口にした。
「お前、前髪の長い男は見なかったか?」
「…は?」
何を言い出すかと思えば藪から棒に何なんだ。
どうして空蒼を追いかけてまでそれを言いに来た。
「そいつが新選組から出てくるの目撃したんだ、その後街にある団子屋に入って行って、出て来たのがお前だけだったから。そいつどこに行ったか分かるか?」
「………。」
必死な顔で空蒼に問いかけてきた。
それを見ていた空蒼は表情が読み取られないように、ポーカーフェイスでやり過ごそうとする。
(待て…奴らが言っているその前髪の長い男ってあたしだよね?え、嘘?気付かないの?前髪切っただけなのに…)
そんなに変わっただろうか。
いや自分自身でもびっくりしたのだから変わったんだろう。
「…てかお前、妙な目の色をしているな?」
「……。」
今更そこを突っ込むとか仕事出来ないタイプに見える。
どう答えていいのかわからず、とりあえず無言を貫き通す。
「おいおい、何とか言えよ」
そんな空蒼に黙っている奴らでは無いようだ。
当たり前か。
これ以上無言でいると、腰にあるその二本が抜かれかねない。
「…知りませんが、その人が何か?」
とりあえず、探りを入れてみる事にした。
何のために空蒼を探しているのか知る必要がある。
「…そいつがこの間、俺の仲間と対峙した事があるらしいんだ。対峙している時にそいつの仲間、新選組が助太刀に入って捕らえられた。その復讐だ」
「……。」
空蒼の眉間にしわがよる。
心当たりの無い話についていけないようだ。
(そんな事……あった?)
空蒼は初日以来、新選組屯所から出ていない。
そんな騒動に巻き込まれるわけがない。
「…人違いなのでは?」
「な訳あるか!そいつはその後土方と沖田と一緒に帰って行くのをこいつが見てるんだ」
「…?」
すると、リーダー格の人が隣にいた青年を親指で指さしながらそう言ってきた。