あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「なぁ?お前見たんだよな?」
「勿論、ちゃんと新選組に入って行くところまで見届けたぜ。あと少しでお金を奪えるはずだったのに…あの餓鬼が来やがったせいで…」
歯をギリギリとさせながら、さっきよりは殺気が出ているのが肌で感じる。
(お金…土方さんと総司が助太刀……もしかして楓を助けたあの時の?)
だが、空蒼はこの青年に見覚えは無い。
もしかしたら、隠れて逃げていたのかもしれない。
これ以上探りを入れると勘づかれる可能性があるので、素知らぬフリをしてやり過ごす事にした。
「…そうですか、それは大変でしたね。ですが俺は知りません、他を当たって下さい」
奴らの言葉で確信できた。
奴らは新選組の敵だ、きっと長州の奴らだろう。
仲間が捕らえられたからって、復讐とはなんとも愚かな人達だろうか。
こんな人達には絶対なりたくないと思った空蒼であった。
「そうか…うーん、最初からやり直しか?」
リーダー格の一人が唸りながらそう呟く。
やり直さなくていいからさっさとどこか行って欲しいものだ。
「…もう一度、あの団子屋を張り込むのはどうです?」
すると今まで黙って聞いていた、三人目の男が口を開いた。どうやら敬語を使っているところを見ると、この中では下っ端らしい。
「そうするしかないか…」
リーダー格の男はやれやれと言いながら、頷いた。
青年もそれに同意をしているのか、無言の肯定をしている。
仲がいいのか悪いのかよく分からない人達に見える。
(…新選組が仲間を大切にするように、敵にもこうやって仲間がいるんだな…)
でもだからといって、命のやり取りが盛んな長州が復讐っていう愚かな事するとか暇なのか。暇なんだな。
新選組の人達ならそんな事しない。
比べてみるとこうも違うのだと改めて実感する。
それと同時に新選組の強さが身に染みて分かった気がした。
「……あの一ついいか?」
「なんだ?」
関わり合いにはなりたくないが、楓のいる団子屋に戻ると言われて黙ってはいられない。ここは嘘を本気にさせるしかないか。
空蒼はリーダー格の男に向かって口を開いた。
「その男を見た訳ではないが、団子屋の中にそんな人はいなかった」
「……本当か?」
「本当だ。男で前髪が長いのなら見たら直ぐに印象に残る」
嘘も方便だと言うように、空蒼はすらすらと嘘を重ねていく。嘘を付くのは嫌いだが、こういう嘘は見逃したい。
これが楓を助ける事に繋がるのなら、何回だって付いてやる。
「…分かった。よしお前ら、最初から作戦の練り直しだ。一旦戻るぞ」
リーダー格のその言葉に二人は頷いた。
どうやら信じてくれたらしい。引っかかりやすい人達で良かった。
「…ところでお前、よく見たら西端な顔立ちしているな?」
「……はい?」
もう話は終わったはずなのに、何か訳の分からない事をリーダー格の男に言われた。
目を真っ直ぐ見つめられ、じろじろと見られている。