あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
第二話
最初は子供同士のじゃれ合いから始まった。
生まれつきあたしの目は俗に言うオッドアイだった。
左が青色、右が黄色で、日本では金目銀目と呼ばれる事が多いそうだ。
小さい頃のあたしは、周りと違う目の色に特に何も感じていなかった。
母親からは色素が薄くて稀にそうなるらしいと言われていたので、自分だけでは無いならと気にしていなかった。
だが、小学校に上がった頃からその考えは変わっていった。
『お前のその目気持ち悪い!』
『どうして俺らと同じ黒じゃないの?怪物だ!』
『青と金の目って人間じゃない!』
そう、心もとない言葉を浴びせられるようになった。
最初は仲良くしてくれていた友達も徐々にあたしの周りから居なくなり、気付いた時には一人になっていた。
中学に上がる頃には目がなるべく見えないように前髪を出来るだけ長く伸ばして、目立つ事も避けて一人で過ごしていた。
ここまで来ると、小さい頃の活発な女の子の面影はどこにも無く、友達と呼べる人は一人もいなかった。
心を閉じ、誰とも話さない日々。
義務教育だからと中学までは我慢して通ってはいたがそろそろ限界が近付いてきていた。
そんなある日。
あたしのクラスに転校生がやってきた。
とても明るく可愛らしいその子は直ぐにクラスの人気者になっていた。
そんな人気者の女の子は誰にでも気さくに話しかける性格らしく、こんなあたしにも話しかけてくれていた。
『朔雷さん!おはよう』
『…おはよう』
最初はただの気まぐれだろうと思っていたのだが、学校がある日は毎日挨拶をしてくれた。
そして段々と話す回数が増えていって、いつの間にか休み時間も常に一緒にお話をするような仲になっていた。
これが友達なんだと凍っていた心が溶けかけていた時。
職員室からの帰り道。
友達こと橘芽吹(たちばな いぶき)を教室に待たせているので足早に教室に向かっていた。
『芽吹、最近あの子とつるんでるけどどうして?あいつの目の色知ってるでしょ?』
ドクンッと心臓が波打った。
『空蒼の事?』
芽吹の声が聞こえた。
『そうそう、あいつ小学校でも友達居なかったんだって、そりゃそうでしょあんな目をしてれば誰だって近付きたくないよねー』
やっぱり、どんなに大人しくしててもこの目がある限り何も変わらないんだ。
教室にドアのところに立って、気付かれないように息を潜める。
『そんな事言わないの!誰だって好きであの目を持って生まれてきた訳じゃないでしょ?』
芽吹の声だった。
まさか、芽吹があたしを庇ってくれるなんて思ってもみなかったのだ。
もうあたしにはこうして味方がいる。
大丈夫。
絶対…。
『それに……皆から厄介者扱いされてる空蒼に優しくしてたら、モテるでしょ?』
ドクンッ
『えぇー?やっぱり芽吹もそんな風に思ってたんだ〜』
『そりゃそうでしょ?誰が好き好んであんな怪物みたいな目の色をしたやつを友達だと思うの?』
ドクンッドクンッドクンッドクンッ
心臓の音がうるさい。
『芽吹ってうちらより性格悪くない〜?』
『いやいや逆でしょ?一人でいる所をあたしが声掛けてやってんだよ?有難く思えっての』
『あははは!確かに〜!』
「はぁはぁはぁはぁはぁ…」
さっきのが芽吹の本当の言葉?
視界が涙で見えなくなる。
やっと友達だと思った人があんな風に思ってたなんて……。
それからは芽吹とも距離を置き、中学を卒業。
義務教育ではない高校になんて行きたくはなかったけど、中卒で仕事を探すとなるととても大変。
なので渋々高校を受験しそこでもあたしは目立たないように過ごしていた。
しかしそこでもクラスメイトに蔑まされ、溶けかけていた自分の心はまた凍ってしまった。
ただ一つ。
変わった事と言えば、またあたしに話しかけてくる女の子が居たのだ。でももうあたしも学んでいる。
こういう人とはもう絶対関わらない。
その子に話しかけられてもなるべく話すこと無く、時が過ぎていった。それなのに諦めること無くあたしに話しかけてくる子は本当に変わっている。
何をあたしに望んでいるんだろう、そんな事すら思うようになっていた。
そして月日が流れ高校三年生の春、自分の好きな芸能人とたまたま街中で会った時、こう言われた。
『うわっ、気持ち悪っ』
本当に、あたしが何をした?
この目の色であなた達になにか迷惑かけましたか?
この日の夜にあたしはどこか遠くへ行きたいと思いながら眠りについて、気が付いたら見たことの無い場所に来ていたのだ。