あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「お互い誤解が解けたんだ。仲直りだろ」
「……知っていたんですか?」

土方さんの表情を見ると、何もかも知っているような顔だった。それに先程からの言動を見るとそれは明白だ。
いつ知ったんだろうか。
空蒼をチラッと見た後口を開いた。

「…さぁな」
「……。」

この人はいつも肝心な事は全然言わない。どうでもいい事はすぐ言うくせに。
でも、そこがいい所でもあると今思ってしまった。言葉は口にしたって伝わらない事はあるから。なら、これでいいのかもしれない。
空蒼は表情を緩めてふぅと息を吐いた。

「…帰りましょうか朔雷さん」
「っ……」

ゆっくりとその場に立ち上がりながら総司がそう言ってきた。
その言葉にびっくりしながら総司を見上げる。

「帰りましょう…俺達の新選組屯所に」
「……。」

空蒼の目の前に差し出された総司の手を無言で見つめる。
いいんだろうか、この手を取って。いいんだろうか、自分も新選組の一員だと思っても。
弱くて、根性無しで、覚悟の無い人でも新選組だと名乗ってもいいのだろうか。これからもきっと迷惑かけるだろうし、自分勝手な行動もすると思う。それでも、それでも彼らは新選組の一員として認めてくれるのだろうか。
総司の手を握り返せずにいると痺れを切らした土方さんが口を開いた。

「…勘違いするな、この前お前に拒否権はないと言っただろ。お前はもう…新選組の一員だ」
「っ……!!」

土方さんは真剣な表情でとても冗談を言っているようには見えない。
土方さんがそんな事を言うなんて熱でも出ているのだろうか。そう思いながら、空蒼も立ち上がり土方さんの額に手を当てる。

「…おい、お前何してんだ?」
「んー…熱はないか」
「……ねぇよ!!」

イライラしながらバッと空蒼の手を払いのける土方さん。見えない怒りマークが沢山見える気がする。
それなのにそっぽを向いた土方さんの耳は何故か赤くなっていた。

(…?何故?)

空蒼は赤くなった右手の甲をふーふーしながら土方さんをチラ見する。
そう言えば、どうしてここに居るのが分かったのだろう。土方さんも総司も空蒼がここに居ると分かっていた様な登場の仕方だった。

「ん?どうかしたんですか?」
「え…?」
「土方さんみたいに眉間に皺が寄っていますよ」

こーんな風にねと言いながら、土方さんの真似をするかのように手で眉間に皺を寄せる仕草をする総司。
その顔が可笑しくて空蒼はぷはっと声が漏れてしまった。

「あー朔雷さん可哀そうですよう、土方さんが拗ねてしまいますよー」
「…おいてめぇ総司、喧嘩売ってんのか?」
「嫌ですねぇ、土方さんのその顔には負けますって。顔だけで喧嘩売れる人はこの世で土方さんだけだと思いますよう」
「……やっぱり喧嘩売ってるじゃねぇか!!」

そう怒鳴った土方さんは総司のこめかみをぐりぐりと集中攻撃をし始めた。
明らかに総司に遊ばれている。

「ちょっ…痛っ痛いですよ土方さん!」
「てめぇが悪いんだろうが!!」

痛いと言いながらも楽しそうに笑っている総司と、言葉は一応怒っているが顔はとても穏やかな表情をしている土方さん。
仲が良いなぁと思いながらも、そこに口を開く空蒼。

「ふざけている所悪いんですが…二人はどうしてここに?」

仲良くふざけている所水を差して悪いと思った空蒼は最初に謝っておく。
すると、その言葉に二人の動きが止まった。

「…ふざけてねぇよ」

バツが悪そうに総司のこめかみから手を放す土方さん。
いや、明らかにふざけていたと思うのだが。多分、土方さん自身そう思っていても認めたくないんだろう。


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