あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「…朔雷さんの居場所を教えてくれた方がいたんですよ」
「え…俺の?」

総司はぐりぐりされたこめかみを痛そうにおさえながらそう言った。
それほどまでに力強くぐりぐりされていたのだろうか。

「はい…その方も新選組隊士で優秀な監察方なんです」
「っ……」

そう言われた瞬間、一人の男性が空蒼の頭に思い浮かんだ。
優秀な監察方で空蒼を見張っていた人物は一人しか思い当たらない。
あの夜、姿は見ていないが天井越しで会話した人。

(…山崎丞……)

山崎さんが場所を教えたという事は新選組屯所を出てから、ここ三条大橋までずっと後を付いてきていたという事なのだろうか。もしそうだとしたら、とんでもない人だ。全然分からなかった、いや名前は知っていても顔は知らないから分かりようがないか。

「…無駄口叩いてねぇで総司はさっさと後始末しろ」

すると、いつの間に移動したのか、土方さんは砂利の上で血を流して倒れている三人の近くにいた。
顎でクイッと総司を促して催促をしている。

「…はぁ全く…土方さんは人使いが荒いんですから」
「なんか言ったか?」
「別にー」

文句を言ってはいるが、総司は嬉しそうに笑っている。
総司はきっとこういう何でもない日常が好きなのかもしれない。
いや、人が亡くなっているのにその日常が好きはないか…でも、総司の笑っている顔を見ると、そんな事も忘れるくらいこっちも笑顔になる。そんな魅力が沖田総司という人にはある気がする。

「すみません朔雷さん…怪我をしているのに時間を取ってしまって」
「…いや、大丈夫です」
「……いつも、そうですよね…」
「え?」

何か今、聞こえたような気がするのは気のせいだろうか。
それに一瞬、総司の顔に影が差したのは空蒼の見間違いだろうか。

「…いえ、何でもありません…五分で終わらせてきますので待っていて下さい」
「あ…はい」

そんな空蒼の気持ちも他所にいつもの総司の顔つきだった。
それを見て空蒼はホッと胸をなでおろした。総司にはいつまでも笑顔でいてほしい、もうあんな総司の顔は二度と見たくないから。

(…それにしても…待っていて下さい、か……)

とても言われなれない言葉だった。空蒼はずっと一人だったから。
でも、なんで…どうしてだろう、今はそんな事ひとかけらも思えない、思わない。

(…新選組……)

それを教えてくれたのは紛れもない彼等だ。
空蒼は二人に視線を移した。

「おいてめぇ総司!!俺の服で手に付いた血を拭くな!」
「えぇーだって目の前にあるから拭いていいのかと」
「んな訳ねぇだろうが!!どうしてそうなるんだよ!」
「酷いなぁ土方さん、それくらい貸してくれてもいいじゃないですかー」
「てめぇ…」

死体を前に何をやっているんだろうかあの二人は。総司も総司だし土方さんも土方さんだ、そんな事にいちいち乗っからないでほしい。空蒼はこれでも怪我人なのだが。
でも、からかう者とからかわれる者…そんな人達だから空蒼は好きになったのかもしれない。
決して強さだけじゃない、そこに優しさが存在する。そんな彼等に空蒼は惹かれたんだ。

もしかしたら、あの日出会った時点で離れられる事なんて出来なかったのかもしれない。
二人を見つめながら、そう思わずにはいられなかった。




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