あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした

第十一話




「…はぁ……また倒れてしまった…」

空蒼は見慣れた天井を見つめながら、布団の上で寝転がる。
天井の隅には詰め物をされた穴が目の隅で確認できる。空蒼の目は夜目が効くため、薄暗い部屋の中でも見る事ができる。空蒼の得意分野の一つである。
だが、薄暗い中にも明かりが灯っているのが見て取れる。
見ると、空蒼の寝転がっている頭の先が明るく灯っていた。それに黒い塊が机に向かって座っている。

(……もしかしなくても、土方さんか…)

ここは土方さんの部屋、居て当たり前だ。
空蒼はモゾモゾと横たえている身体を動かした。

「っ…痛っ、何っ!?」

左腕を動かした瞬間、左腕に激痛が走った。
身体をゆっくりと起こし、左腕に目線を向ける。
いつの間に着替えていた夜着を捲り上げると、綺麗に包帯が巻かれていた。

「これは……」
「…そんなに大した怪我じゃねぇが、先刻治療したばかりだから大人しくしてろ」
「っ……」

包帯の巻かれた腕に気を取られていたら、後ろから言葉をかけられた。
身体を後ろに動かすと、動かしていた筆をコトっと机に置くのが見える。そして、こちらに身体を向けてきた。

「……。」

目線が重なり、土方さんの表情が行灯の灯りで確認できた。いつにも増して眉間に皺が寄っている。
いつも眉間に皺を寄せていたらいつか跡がついてしまいそうに思えてならないのだが、本人はそんな事考えた事もないんだろう。
きっと、それが癖になっているのかもしれない。

「なんだ、俺の顔に何かついてるか」
「……顔?いえ、何も」
「なら何でそんなに見てくるんだよ、気持ち悪い」

どうやら、眉間の皺の事を考えている最中、ずっと土方さんの顔を見つめていたらしい。
我ながらなんと恥ずかしい行動だ、気を付けなければ。

「…自意識過剰ではないですか?」
「…あ?」
「土方さんの顔を見たって何の得にもなりませんよ」
「てめぇ…」

空蒼の言葉を真っ直ぐに受け止めてくれる土方さんは、良い反応をしながらこちらを睨んできた。

(土方さんって本当にからかいがいのある人だなぁ…)

にやにやを悟られないように我慢しながら顔を見られないように、左腕に視線を向けた。
さっきも思ったが、綺麗に巻かれている。

(…治療……)

一人しかいない。
治療してくれた人はきっと名前を教えてくれた、顔の知らないあの人。

「…お前が倒れた後、総司が酷く落ち込んでいた」
「……え?」

その声に顔を向けると、土方さんが真剣な顔をしてこちらを見ていた。
たまに見るその目は、吸い込まれそうなほど、真っ直ぐな目をしている。覚悟を決めた、そんな人の目だ。
見慣れないその目を見ていると、自分がちっぽけに思えてくる、何の覚悟も無い自分が哀れに思えてくる。






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