あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした






でもきっとここも一緒。
この目がある限り、何回だって蔑まされ心にない事を言われるんだ。
自分の事を知らない所へ行っても一緒ならいっそ死んだ方がマシだ。

ぽたっぽたっ

「…えっ、ちょっと…え?さ、朔雷さん!?」

今までの出来事を一気に思い出したせいか、涙か溢れて止まらない。
足元を見つめながら空蒼は顔を手で覆った。

(こんな野次馬達がいる所でなんて泣きたくなかったのに…)

涙が止まらない。
言うことを聞いてくれない。

「ちょ、えっ!?お、俺が泣かせたんですか!?」

そんな空蒼を見て、目の前にいる彼はしどろもどろになっているみたい。
もういっその事この目を見て離れてくれないだろうか。そうすればここから離れられるのならなんだってやる。

空蒼は溢れ出る涙を必死に拭う。

「あ、あのっ…えーと…その…」

途切れ途切れになりながらも空蒼のことを気にかけてくれているようだ。初対面でしかも怪しさ満載なのにも関わらず、気にかけてくれているところを見ると、彼の優しさが嫌でも伝わってくる。
すると、空蒼の目の前まで来たのか、指の間から彼の足元が見えた。

(…あたしのこの目を見たら、この人はどんな反応をするのかな…)

「おい総司!いつまでかかってるんだ!」

――ビクッ

そう思っていたら、急にどこからか怒鳴り声が聞こえてきた。
本当に急すぎてビクついてしまった自分が恥ずかしい。
こんな静かな場所で誰が大声を出しているんだろうか、はた迷惑な奴だと悪態を付きながらも涙で視界がよく見えない。

「うわっ…面倒臭い人が来てしまいました」

目の前の彼がぽつりとそんな事を口にした。
そんな事を言うくらい彼にとって厄介な人ってことなのだろうか。

「まだ終わんねぇのか?こちとらもう終わってんぞ…ん?誰だその怪しいガキは」

空蒼の姿を見るなりそう言う口の悪い男は、きっと絶対モテないだろうなと心の中で思いながら口には出さない。
ただでさえ、怪しい奴認定されているのに、そんな事を口にしようもんならきっと生きて帰れないだろう。

(まぁ…別に生きることに執着はないけど…)

「あぁ…こちらの方は……っていうか来るのが遅いですよ土方さん!」

――ドクンッ

その言葉に眉根がピクリと動く。

「あぁ?総司にだけは言われたくねぇよ」
「はいはいそうですか」
「返事は一回」
「…。」

そんな二人のやり取りを、早まる心臓の音を聞きながら見守る。

(待って…今、土方さんって言った?…土方……?)

いつの間にか止まっていた涙に気付きながら、目に溜まっていた涙を拭いとる。
フードを深く被り直し、二人を視界に入れながらその場から静かに離れようと後ずさる。

「おい待て」

(……ちっ)

空蒼のその行動を見逃さなかったのか、タイミングよく止められた。
仕方なくピタッと動きを止める。

――ザッザッ

こちらに歩いてくる足音が聞こえる。

空蒼は咄嗟にフードを抑えながら下を向いた。
すると視界に、さっきとは違う足元が目に入った。
赤い足袋に下駄を履いたその人は、あたしの目の前で止まる。

フードを抑える手に力が入る。

「…おい総司、こいつはなんだ?」

頭上から低い声が聞こえてきた。
品定めでもしているのか、視線が突き刺さるのが分かる。

「朔雷空蒼さんです…まだ名前しか聞いていません」

沖田総司と名乗る彼の声が、この人の後ろから聞こえた。
今更だが、今目の前にいるこの人は彼の上司なのだろう、立ち位置が逆になったようだ。

「朔雷…空蒼……変な名だな?」

彼の代わりに目の前の人が空蒼に質問をしてきた。

「…。」

だが、空蒼はもう何も突っ込まない事にしたようだ。
ていうか、それに突っ込むこと自体ばかばかしく思えてきたらしい。時間の無駄というやつだろう。




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