あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした



「…あいつは己の気持ちを押し込めるのが上手い。だから、お前に怒りをあらわにした時は大層驚いたが……仲直りしたからといってお前についたその傷に何も思わないあいつじゃない。お前が大丈夫と言ったから笑って過ごしたが、それなりに堪えているんだろうよ」
「……。」

総司が、あの時笑っていたあの総司が、実は我慢していた?実際は自分の気持ちに蓋をして無理に笑っていたという事なのだろうか。
それだけ不器用で他人に対して口下手という事なのか。
空蒼にはよく分からなかった。

「……お前と総司は似ているようで似ていないな」
「は…?」

黙っていると、土方さんが訳の分からない事を言ってきた。
はぁとため息を付いている。

「…いや、似た者同士か?」
「……。」

何をさっきから訳の分からないことを言っているのだろうか。挙句の果てには自問自答をしだした土方さん。どうやら頭がおかしくなったようだ、可哀想に。
空蒼は哀れみの目で土方さんを見つめた。

「何だよ……ん?そういやお前、いつ前髪切ったんだ?」
「……。」

今更気付いたとでも言うように、胡座をかいてた膝の上に肘を乗せて、頬杖を付いて聞いてきた。
何を考えているのか分からない表情をした土方さんが、こちらを見つめてくる。

「…さぁ?」
「……。」

空蒼の返事に対して眉毛がピクりと動いた。
空蒼の答える気の無い返事に呆れているみたいだ。当の本人も面倒臭いから話したくないと言う顔をしている。
それも空蒼の性格の一つに過ぎない。一瞬でも面倒臭いと思ったら急に何もやりたくなくなる、話すのも面倒臭い、動くのも面倒臭い、つまり面倒くさがり屋なのだ。

空蒼は机の上の文に視線を向けた。
そこには墨でミミズの様な字が書かれている。もちろん空蒼には読めない。

(…新選組が好きでも、この時代の字は流石に読めないな)

読めたらいいなと考えずつ、でも勉強するのは嫌だしなとあれこれ考える。
下ろされた髪を手で梳きながら、土方さんを見つめる。
土方さんも空蒼を見つめていたのか目が合う。

(凄いイケメンだなおい)

現代で見た事のある、整った顔立ち。
目はぱっちりしていて、キリッとした眉毛、後ろに結んでいる髪。頬杖をついているからかイケメン度が増している。本当にイケメンと言う言葉が当てはまり、女に困らなかったと伝えられているがそれは本当の様だ。この顔立ちなら引く手あまただろう。

(まぁ…見た目だけで言ったらだけど。性格は……やや難あり)

だが、鬼の副長と言われてはいるが、ただ怖いだけじゃないのは話していて伝わってきた。現代でも鬼の副長と言われていたが、所詮言い伝えに過ぎなかったらしい。
史実と言われていること自体が違うことなんてきっとざらなんだと、その人の本当の性格は実際に目を見て話した人にしか分からないんだと改めて思った。



< 120 / 123 >

この作品をシェア

pagetop