あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
そして空蒼もその中の一人。直接会って話していくうちに気付いたんだ。
改めて土方歳三という人物に触れた気がした。
「…あの後、どうしました?」
空蒼は話題を変えた。
どのくらい経ったのかは知らないが空蒼が倒れたその後、どんな風になったのか知りたかったのと、いつまでも切った前髪の事に話題を向けていたくなかったからである。無性にも恥ずかしいのだ。
あの後、空蒼は二人の事を砂利の上に座って待っていたのだが、限界が来たのか意識が遠のいて倒れてしまった。
倒れた直前に二人が名前を呼んでくれたところまでは覚えているが、その後は何も知らないのだ。
「どうって…何がだ?」
「……だから、あの三人組はどうなったのかなぁとか、俺はどうやってここに戻って来たのかなぁとか…」
チラチラと土方さんをチラ見しながら、考えて言葉を紡ぐ。
記憶のない時間を知りたいと思うのは人ならではだろう。それに、人が斬られる所を初めて見た空蒼にとってはどれも未知の世界。現代で知ることの出来ない事を知れるのは純粋に嬉しいものだ。
でも、人を斬る感触はできたら知りたくは無いが、新選組にいる以上は無理な話だろう。いつかその日に備えて覚悟を決めておかねばならない。
「……さぁな」
「……。」
さっき、空蒼もそう言って何言わなかった事を根に持っているのか、土方さんは怪しい笑みをしながら言ってきた。
それを見ると、なんだか苛立ちが込み上げてくる。
空蒼も空蒼なら土方さんも土方さんだ。空蒼は認めたくはないだろうが、これが似た者同士というものなのかもしれない。
空蒼は土方さんを睨み付ける。
それに対して土方さんは素知らぬ顔をしながら、頬杖を止めて、今度は筆を指でくるくる回して遊びだした。
(この……顔だけイケメン男め…する事成すことが子供すぎなんだよ……)
それに、何気にペン回し改め筆回し上手いし。
器用に筆ペンを回す土方さんも普通に絵になっているではないか。女子がこの姿を見た日にはきっとこの姿に当てられる事だろう。
(あたしは絶対にときめかないけどね!)
中身はまだまだ子供の土方さんなのか、挑発してくる事が子供なんだよなぁと思いながらも、土方さんと自分は違う!と否定する。
「……ん?お前…………」
「……?」
すると、筆回しを続けながら、空蒼の顔を真っ直ぐと覗き込んできた。その距離僅か二十センチ程。
急に土方さんの顔が目の前に迫り、驚きのあまり身体が固まる。
土方さんはじっと見つめてくるだけで何も言わない。
(くっ……イケメンの破壊力とはまさにこの事……)
何故か知らないが、心の中で空蒼は土方さんに負けた気がした。そして、もう限界なのか空蒼は口を開いた。
「……あの、何か」
冷静さを保ちながら、なんてことは無いという様な態度をとる空蒼。まさに負けず嫌いがガンガン出ている。何と闘っているのやら。
「…いや…………そんな事よりさっさと寝ろ。良い子は寝る時間だ」
回している筆ペンを見つめながら無表情で言う土方さん。
そんな事よりって空蒼にとっては色々と重要な事なのだが。聞いた事にも答えてくれないし、今の行動の意味についても答えてくれない。土方さんを見るにどうやら本気で言う気は無いらしい。
「はぁ……もういいです」
空蒼は呆れた顔をしながらため息を付いた。
土方さんに聞くのを諦め、あの男達の事は総司にでも今度聞こうと空蒼は決心する。
さっきの行動についてはもう諦めるしかなさそうだ。
こうなった土方さんの口を割るのはきっと疲れる。そんな労力があるのなら空蒼は違うことに使う派だ。