あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした
「おいお前、どうしてそんな変な格好をしている?その頭に被ってるのは何だ?」
それにしても何故だろう。
あの沖田総司と名乗る人よりも圧を感じるのは気の所為か?
それにとても声が低く、今すぐにでもその腰にある刀で斬られそうな迫力だ。
(…刀?)
空蒼は刀が見えるように少し顔を上げた。赤色の鞘に鳳凰、鐔には梶の葉と七夕図。
それが示しているものと言えば一つしか思いつかない。
そう思ったら変な脂汗が額を伝う。
「おいっ、聞いてるのか?」
――グイッ
「うわっ…!?」
急に腕を掴まれたかと思ったら、すぐ目の前にどこかで見た事のある顔と目が合った。
次第に空蒼の目が見開かれていく。
そして、掴んだ腕を上にあげられ、気付いたら見上げる形になっていた。
――パサッ
(……パサ?)
なんか急に頭が軽くなった感じがした。
いつもと違う感覚に戸惑っていると、目の前の男が驚いた表情をしながら、空蒼の目を真っ直ぐと見てきた。
「っ…お前、その目…」
「っ…!?」
目を真っ直ぐ見てきたのにも違和感があったし、その言葉でやっと確信した。
空蒼は掴まれている腕を無理やり解き、頭を触った。
(っ…なっ)
案の定フードが頭から落ちており、すぐさまフードを被り直す。
――ドクンッドクンッドクンッ
速く波打つ心臓の音がうるさい。
フードを深く被り、目を見られないようにフードを抑える。
(…見られ、た?)
空蒼の気持ちとは裏腹に、今のは確実に見られたみたいだ。目が合うとはそういう事だ。
早まる心臓の音を聞きながら心を落ち着かせようとする。
(大丈夫、大丈夫…きっと大丈夫…)
自分自身にそう言い聞かせ、正気を保とうとする。
「……だな」
「………?」
自分の事で頭がいっぱいだった空蒼は聞き取れなかった。
何?と思いながらもフードを抑える体勢は変わらない。
「おい」
――ガシッ
「っ……!?」
(また、こいつはっ…!)
諦めの悪い男なのか、先程と同じように腕を掴んできた。
二度も同じ事をされないよう、頭の形が分かるくらいギュッと力強くフードを抑え込む。
「…違ぇよ」
「っは…?」
空蒼の動きを見て思っている事を理解したのか、そう一言呟いた後、次の瞬間空蒼の頬を両手で包み込んだ。そしてその拍子にまた彼と目が合う。
空蒼は何が起きたのか分からず身体が硬直する。
「っ……」
空蒼はフードを抑えながら、彼は空蒼の頬を両手で包みながら、お互い見つめ合っていた。
先ほどは驚いていた彼も今はとても落ち着いていて、空蒼を目を見つめている。いやむしろ、何か言いたげな表情をしている。
(真っ直ぐな…目…)
こんなに人と話したのも久しぶりなのに、こんなに目を見られたのもいつぶりだろうか。
相手からこうやって目を見つめようとしてきた事に、とても戸惑いを隠せない。それにこうも顔が近いと緊張で何も話せない。
すると、戸惑っている空蒼の目を見つめながら口を開いた。
「…お前のその目、綺麗だな」
「っ……!?」
その言葉に空蒼は目を見開いた。
柔らかく笑った彼の瞳に空蒼の顔が映っているのが確認できる。
(いっ…今、何を…)
情報の整理が追い付かない。目の前の彼は一体何を口にした?この目を見てなんと言った?
散々この目の事について色々言われてきたのに、彼は優しい目で見つめていた。
そして今も空蒼の目を見つめ続けている。空蒼はそんな彼に聞き返した。
「……き、れい?」
そんなはずはない、聞き間違いだと己に言い聞かせながら返事を待つ。
聞きなれないその言葉に極度に反応しているのはきっと空蒼の嫌いな言葉だから。
「…綺麗だ」
もう一度その言葉を口にした時、とても見た事のある顔をしている事に気が付いた。